物語は、少年が兄を追って『北斗七星団』という、少々怪しげな戦闘団に入団希望をする所から始まる。

大きな荷物を持って、彼は団の前に立った。
「とうとうココまできたよ、兄さん…」
少年の名前は更戸祢鳶慈(さらとねえんじ)
当年とって15歳。
先日、ようやく中等学堂――地球で言う所の中学校――を卒業。
兄、鴇慈(ときじ)に遅れること6年、ついに北斗七星団の門をくぐった。

思い起こせば6年前、その別れは突然来た。
「鳶慈、俺は遠い所へ行っちゃうけど、元気でな」
兄が学堂卒業式を終え、家に辿り着くや否や発せられた言葉。
鳶慈は、その意味がつかめなかった。
「お兄ちゃん?」
「琥香(くこう)とオジさんオバさんにはよく言ってあるから。何も心配要らない」
そう言って、ちょっと困ったような顔で笑って、それじゃ、と行ってしまった。
「お兄ちゃん!」
鳶慈は追いかけようとしたが、それを琥香が優しく止めた。
「琥香さん!」
「鳶慈、鴇慈が選んだ道…進ませてあげて。貴方も6年経ったら後を追える。それはとても長いけれど…」

――そう言って、琥香さんはその次の年に兄さんを追いかけて行っちゃったんだよな…。
6年前の事を思い出しながら、鳶慈は1人苦笑した。
琥香は、隣の家の娘で、鳶慈や鴇慈たちの幼馴染み。
鴇慈より1歳年下の彼女は、鴇慈が団に旅立った翌年、彼を追うように行ってしまった。
あの時ほど6歳という離れた歳の差を呪った事はない。
その後鳶慈は、琥香の両親に世話になりながら学校へ通い、現在に至る。
因みに、鳶慈たちの両親は事故で随分前に他界している。
――何故兄さんが突然ココへ来る決意をしたのか。僕はそれが知りたい。

 建物の中に入って見ると、思ったほど広くない。
まあ、実は奥の方に延々広がっていると言うオチもあるかもしれないが。
鳶慈はとりあえず、最初にココへ来るように、と連絡を受けた団長室を探した。
――…別に良いんだけど。
鳶慈は思う。
――全然人を見かけないのは何故なんだろう…。

実は、鳶慈はそう思っていたけれど実際は影からこっそり覗き見る姿があった。
ふさふさした長い耳がたれた、ピンクの髪の少女の姿。
スカートの下からは、尻尾も見える。
どうやら獣人らしい。
「あの子が噂の新入団員さんね…」
可愛らしい声でそう呟くと、何処かへ走って行ってしまった。

しばらく探し回って、鳶慈はようやく『団長室』というプレートのある扉を見つけた。
団長室というくらいだからさぞ立派なものだろうと思っていたが、非常に簡素な作り。
そのプレートも手書き(しかも投げやりな字)という辺りもなんだか凄い。
――ホントにココで良いのかな…。
そう思ってドアノブに手を伸ばした時、その中から突然男の大きな怒声が飛んできた。
「どういうことだ!?俺はそんなこと聞いてない!!」
それに応える男の声も聞こえてくる。
「だから今朝の朝会(あさかい)で言ったんだ!お前はいつも通り寝ていただろう!?」
先ほどの声より小さいが、こちらも怒気をはらんだよく透る声。
鳶慈は何故か、どちらの声も何処となく懐かしい気がした。
思わず、こっそり扉を開けて覗いてしまう。
すると、向こうでも扉を開けようとドアノブをひいていたところらしく…、
「迷子にでもなっていたらどうするんだ?俺は迎えに行ってくる」
「待て!お前務めはどうするんだ!」
「それは夜栄(やさか)に言って…」
その言葉と同時に、ドアノブを持っていた鳶慈は扉が開くのと同じタイミングで部屋に飛び込んでしまった。
バフッと誰かにぶつかる。
「うわぁっ!」
「な、何だ?」
そのぶつかってしまった相手とは…。
「に、兄さん!?」
鳶慈はビックリして後ろに飛びのいた。
自分よりも頭一つ分ほど大きなその男はまさしく。
「鳶…慈?鳶慈か!大きくなったなぁ!!」
鴇慈はパッと笑顔になって、鳶慈を抱き上げた。
鴇慈の頭の上より高く持ち上げられて、ちょっと照れながら鳶慈は言った。
「兄さんだって、アレからまた大きくなったでしょ。僕、もっと追いついてると思ったのに」
「そうだな、そうかもしれないな」
ふと鳶慈が前を見ると、そんな2人を苦笑しながら見ている藍色の髪のエルフがいた。
「迢(はる)さん!」
「久し振りだな、鳶慈」
わたわたと鴇慈の腕から抜け出し、鳶慈はぺこりと挨拶した。
「こんにちは」
そんな鳶慈ににこりと微笑むと、迢は鴇慈に言う。
「ほら、もう安心だろう。色々積もる話もあるだろうが、今は務めを優先しろ」
鴇慈は、はいはいとちょっと投げやりな感じで返事をして、鳶慈に、
「んじゃ、また後でな」
と言って去って行ってしまった。

back ++ next