「そしてココが図書館。何か読みたいものがあれば閲覧も持ち出しも自由だ」
「はー…」
「どうした鳶慈?」
「い、いえ」
思っていた通りのオチだった。
そう、奥が広い部類の建物。
とてもじゃないが、今日一日で全て覚えられそうも無い。
――えっと…あそこに非常口であそこに階段で…それから…。
と、後ろを見ると、ポニーテールの小柄な少女が角に隠れてこっちを見ている。
「あれ?迢さん、あそこに女の子が…」
その声に気付いた迢も振り返る。
少女は慌てて頭を引っ込めるがもう遅い。
第一、色々な方向にはねてる髪の毛がしっかり見えているし。
「紀阿(きあ)、どうした?」
迢にそう言われて、紀阿は照れたように笑ってチョコチョコと近付いてきた。
「えへへ…見つかっちゃった。迢さん、その人が私と同期の新入団員さんですか?」
意外な言葉に鳶慈は驚く。
――あの子も団員なんだ…。
小柄で華奢で、とてもそうは見えない。
「そうだ。…ああ、丁度良い機会か。紹介しよう鳶慈。彼女は紀阿。お前と同期の団員だ」
「こんにちは。僕、更戸祢鳶慈」
「こんにちは!」
にこっと明るく笑って、手を差し出してきたので、鳶慈もあたふたと手を出して握手した。
「迢さん、もしかして鳶慈君はまだ手帳貰ってないんですか?」
「そういえばそうだな。後で団長から渡されるだろうが」
ふと迢が胸のポケットに手をやり、小さな手帳を取り出した。
『北斗七星団 団員手帳』と書いてある。
それをパラパラとめくって、迢はとあるページを鳶慈に見せた。
「『団規則第3条。団内では苗字は使わない事』と、こういうわけだ」
「…へぇ…、どうしてなんでしょうね?」
手帳をしまいながら、迢は首を横に振った。
「さあな。一応団長曰く『仲が良い人たちは名前で呼び合うんだ!!』らしいが」
なるほど、もっともらしいが何だか変な理由だ。
「そういうわけで私、八尾坂(やおさか)って苗字だけど、紀阿って呼んでね」
「うん、よろしくね、紀阿ちゃん」
紀阿は迢に言った。
「迢さん、鳶慈君の案内は私と琴佳(ことか)ちゃんに任せて下さい」
「何だ、琴佳もいるのか?」
迢が、先ほど紀阿がいた辺りを見ると、確かにこっそりといた。
目が合うと、ビクッと壁の陰に隠れてしまう。
やれやれ、と苦笑しつつ、迢は紀阿の方に向き直った。
「それじゃあ、後は2人に任せる。こっちは終わったから、向こうを頼むぞ」
「はーい!それじゃ、行こう、鳶慈君!」
「え、う、うん」
紀阿に腕を引っ張られて、鳶慈はわたわたと琴佳のいる所へ走っていった。
「鳶慈君っていうんだって」
紀阿が、琴佳に言った。
すると琴佳はおずおずと挨拶する。
「……初めまして……琴佳と申します………」
「あ、えーと、僕は鳶慈。よろしくね」
……沈黙。
さて、この後一体どうしたらいいものか、と鳶慈が思っていると、そっと紀阿が耳打ちしてきた。
「琴佳ちゃんね、すごーくおとなしいの。でもとっても良い子。お嬢様なんだよ」
なるほど、言われてみれば確かにそんな感じだ。
「それじゃ、給食室の方見に行ってみようか。翌(あきら)君いると思うし」
そう言う紀阿を見て、琴佳とは正反対でとても活発らしいと鳶慈は思った。
2人とも小柄で華奢だけれど、性格は随分違うようだ。
「翌君って?」
鳶慈が尋ねると、紀阿はニッコリと笑って答えた。
「えっとね、私たちと同期の男の子。ちょっと不思議な感じの子だよ」
と言った所で、突然壁から男が出てきた。
「わああああっ!?」
「なになに!?」
「……っ!?」
3人はオーバーなくらい驚く。
確かに壁から人間が出てきたら驚くだろうなぁ(頷)
けれど、出てきた当の本人は、そんな3人を静かに見ていた。
鴇慈よりは小さいけれど、3人よりは遥かに大きい。
赤い長い髪に、真っ白な肌。
「あ、夜栄さん」
我に返った紀阿がそう言うと、少々間をおいて夜栄はボソリと呟くように応えた。
「すまない」
そして壁の向こうに戻って行こうとする彼を、紀阿が引きとめた。
「待って下さい、夜栄さん」
「……何か用か?」
「彼、新入団員の鳶慈君です。鴇慈さんの弟さんです」
紹介を受けたので、鳶慈はぺこりと頭を下げる。
…が、頭の中は一つの事しか考えていない。
――今、この人確かに壁から…。
出てきただけじゃなく戻ろうとしてるし。
「鴇慈の………」
そう言って夜栄は、鳶慈を見た。
表情は薄いが、その目は何となく優しい。
「そっくり、だな」
また呟くように言って、壁の向こうに行ってしまった。
「…今の人…」
鳶慈が言うと、紀阿が説明してくれた。
「夜栄さん。鴇慈さんと同じ不発弾処理班で働いてるの」
「兄さんと?」
「うん、鴇慈さんと同期なんだって。翌君より不思議な人だよ」
「へえ…」
鳶慈は何となく、夜栄が出てきた壁を叩いてみた。
堅い。
穴が開いているわけでもない。
何故、どうやって彼は、こんな所から出てきたのか…。
そして、それを『不思議』の一言で終わらせてしまうのは…。
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