3人が給食室の前に立つと、中から変な声が聞こえてきた。
「だーら、こままやって間にわなっと!」
「ええ、だから努力してますよ」
「ささ、がんがんな」
「それで、ココはどうするんですか?」
「んー、しょ、し、入って焼」
……どうやら会話らしいが……?
――片方の人、何を言ってるんだか全然わからないぞ?
鳶慈は不審な顔をしたが、紀阿は普通に、
「あ、翌君も砂(いさご)さんもいるみたい」
と言っている。
琴佳は今まで通りおどおどしているだけだ。
「ねぇ、紀阿ちゃん。今、中から不思議な会話が…」
「え?うん。そうなの。砂さん、面白い喋り方をするんだよ。私、全然わからないの」
――いや、『わからないの』で済ませて良いのかなぁ…。
どうやら彼女は、『明るい』『人見知りをしない』
それ以外に、『細かい事をあまり気にしない』という性格のようだ。
「でもねぇ、翌君はちゃんと砂さんの言ってる事、わかるんだ」
言いつつ、平然と扉を開く。
「こんにちは〜」
すると、中には丸い大きな眼鏡の女の人と、赤い肌に金髪が光る少年。
紀阿の挨拶に、2人は同時に振り向いた。
「なーん?紀阿ちゃん、なな用て?」
「『何?紀阿ちゃん、私たちに何か用?』」
女の人がいった言葉を、少年が素早く通訳する。
鳶慈は思わず少年をまじまじと見てしまった。
「新入団員さんの紹介に来たんです。翌君、私たちの同期の鳶慈君だよ」
紀阿がそう言ったので、少年――翌も鳶慈の方を向き、バッチリと目が合う。
「………はじめまして。翌・シェイドブルム…翌です。」
「こ、こんにちは。僕、鳶慈。更戸祢鳶慈です」
相手が丁寧語だったので、思わず丁寧語で。
しかも、向こうが言っていたので、きっちりフルネームで。
まあ、別に名乗るのがいけないわけでもないから良いのだが。
「砂さんの言葉が分かるの、不思議だって思ってましたね」
「え、う、うん」
しっかり、見抜かれている。
「僕はロストガーデナー。僕らの種族の前に、言葉の壁は無いんです」
――はー、便利だなぁ…それは。
そう思ったけれど、それを言葉に出すのは何となく失礼な気がして、鳶慈は曖昧に頷く。
第一鳶慈は今まで、ココにいる砂以外に言葉がわからない人に出会った事が無い。
本当に必要な能力なのか少々謎だ。
そのまま会話が止まっている所に、ひょいっと先ほどの女の人――砂が顔を出した。
「何?トキ君そっくりだね。君が朝会で言ってたトキ君の弟君か〜」
「え、ええ、そうです」
――あれ?
「あー、良かった。トキ君みたいに大きかったりしたらどうしようかと思ってたんだ。あたっしーより小さいね」
ニコニコ笑いながら、自分と比べる砂。
――あれ、あれ??
普通に、喋っている。
――まさか、翌君の傍にいると、僕もそういう能力が…!?
ドキドキと鳶慈はそう考えたが、その期待は翌のツッコミで果てる。
「砂さん、普段からそうやって喋って下さい。通訳する僕が大変ですから」
すると砂は、翌に抱きつきながら笑った。
「やー、って、どうなんやってこー」
「…やれやれ…」

 なんだかんだいって、砂と翌は結構良いコンビのようだ。
能力がついたわけではない事を知って、軽く肩を落とす鳶慈。
その時、ふと外から声が聞こえてきた。
「それは向こうだ」
「りょ、了解デス」
――今度は外からか…。あまり人がいないと思ったら、結構いるんだなぁ。
恐らく先程は、人のいない場所ばかり通ってしまったのだろうと、鳶慈はそう思った。
「紀阿ちゃん、外に誰かいるみたい」
「え?そう?」
言うや否や、紀阿はくるっと振り向いて扉を開く。
鳶慈は慌てた。
「あ、今ちょうどそこにいるかもしれないから気を付けて…」
ガチャ
遅かりし。
「わ!な、何デス!?」
「きゃあ!ご、ゴメンね、慧史(けいし)君!」
何とか扉を避けたらしい銀髪の少年が、持っていた資料を抑えつつ体勢を整えながら応える。
「いや、大丈夫デス。紀阿ちゃんこそ、平気デスか?」
「私は何とも」
そんなやり取りを聞きながら、鳶慈はまたも首を捻る。
声は2人分聞こえたはず。
しかし、目の前には少年が1人。
――聞き間違いかな?
と思ったが。
「今のはなかなか良い避け方だったな、慧史」
しっかりともう1つの声が聞こえてきた。
何処からって、上から。
「そ、そうデスか?禾(ひいず)さんがそう仰るなら、きっととても良い避け方だったんデスね」
――ど、何処にもう1人……??
鳶慈がふと顔を出すと、また上から声が聞こえてきた。
「……君は…もしや、朝会で言っていた鴇慈さんの……?」
「はい、そうです。鴇慈の弟です。ところであの…どちらにいらっしゃるんですか?」
正直に答えつつ、上を見てきょろきょろする鳶慈。
すると、軽い笑い声が聞こえた。
「俺は禾。企画実行委員の委員長補佐をしている。申し訳ないが、今は姿を見せるわけにはいかない」
そう禾が言うと、慧史も続く。
「俺、慧史デス。企画実行委員で書記をしてマス。どうか、よろしくデス」
そして、鳶慈の耳元でボソッと囁いた。
「禾さん、人前が大嫌いなんデス。一緒に働いてマスけど、俺も殆ど見たこと無いデス」
後で詳しく聞いたことだが、どうやら禾は迢以外の団員の前には滅多に出てこないらしい。
人前が嫌い、といっても限度があると思うのだが。
――ずっと天井裏にいたいくらい人前が嫌いなのか…。
悪い人ではなさそうだが、鳶慈にはあまり理解が出来なかった。

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