「こっちは医務室だよ」
給食室を出てちょっと歩いた所にある真っ白な扉。
そこには、団長室より余程立派なプレートが付いていた。
団長室より、ずっと重要な部屋らしい(笑)
「そういえば紀阿ちゃん、さっき給食室で砂さんに何か言われてたみたいだけど…?」
禾たちと別れた後、中から出てきた砂が紀阿にボソッと。
「ああ、アレは伝言を頼まれたの。今は大丈夫」
「そうだったんだ」
紀阿がノブに手をかけて、
「どうする?多分、今なら皆忙しくないと思うけど…」
と言うと、勝手に扉が開いた。
「そこでごちゃごちゃ言ってるのは誰だ〜?」
軽い調子で言いながら、緑の髪で白衣の男が姿を見せる。
…大きい。
特に大したアクセサリーをつけてる様子もないのに、何故かカチカチと金属音がうるさい。
左耳には3つのピアスがついているが、まさかコレが鳴っているわけでもないだろう。
彼は、3人の姿を見て一言。
「おや、ミニマム」
「知鎧(ちがい)さんひどーい!」
すかさず反論を入れる紀阿に、知鎧は楽しそうに笑った。
「あー、悪い悪い。だって若先生は俺より大きいからさぁ、その次にお前等見るとな」
すると、奥から鳶慈が聞いたことのある声が聞こえてきた。
「その呼び方はやめろと何回言ったらわかるんだ?」
「あれ?今の…」
鳶慈がそう言うと、知鎧が頭をポンポン叩いてきた。
「何だ少年。櫻己(おうき)さん、知ってるのか?」
「何が『少年』だ。お前とそうそう歳が違うわけでもないだろう」
言いながら登場したのは、黒髪に眼鏡に白衣。
如何にも真面目そうな感じの男。
鳶慈たちよりずっと背が高い知鎧より、尚大きい。
「鳶慈か」
「櫻己さん!」
「あれ?若先生、少年と知り合い?」
「ああ、昔ちょっとな。鴇慈の弟だ」
「それは見たらわかりますよー。だって、鴇慈さん縮小色変えって感じじゃないですか」
――……縮小色変え……。
その微妙な表現に、鳶慈は苦笑する。
「俺、知鎧。ココで若先生…櫻己さんの助手しながら医者目指してんの」
そして白衣をめくり、そこに並んだメスを見せてニヤリ。
「ついでに俺の相棒たちもよろしく」
どうやら、先程の金属音の原因はコレらしい。
恐らく、普通に白衣を着てるより何倍も重いだろう。
鳶慈がそれに応える間もなく知鎧は後ろを向いて、声を上げた。
「裡菜(うらな)!お前も挨拶しろよ!」
知鎧の声に、奥で誰かが動く音がする。
どうやら、医務室のベッドで寝ていたようだ。
あちこちにはねる髪を軽く直しながら、けだるそうに1人の女が出てきた。
「………何……?…ああ、新しい子?」
そう言って、つかつかと鳶慈の前に来て、顔をまじまじと見てきた。
髪やら、頬やら、なんの躊躇いも無く触ってくる。
――く、くすぐったいかも…。
そう思ったが、構わず裡菜は鳶慈の袖を捲り上げた。
「おとなしくしてれば多分痛くないよ」
「…え?」
腕に何かを塗られたらしく、なんだかスーッとする。
鼻を通り抜けていく、この匂いは。
――…アルコール…?
「裡菜、ストップ!!」
知鎧が慌てて裡菜を羽交い絞めにしながら叫んだ。
「おい、お前たち逃げろ!」
櫻己も、3人を庇うように扉の外に出した。
扉が閉まって、中の声が遠くなる。
「裡菜!お前寝惚けてるな!?」
「アタシは別に普通だよ…。ちょっと離しなって」
「いってーーーっ!ヒールはやめろって何回言ったらわかるんだ!!」
その声を、鳶慈、紀阿、琴佳の3人はポカーンと聞いていた。
「お、櫻己さん?」
鳶慈が櫻己を見上げると、櫻己は溜息をついていた。
「…どうも裡菜は、変な癖があってな…」
所謂、注射狂らしい。
「アレと寝起きの悪さと面倒臭がりな所、その他諸々を無くせば良い医者になれると思うんだが」
――櫻己さん、それじゃ裡菜さんが凄く欠点だらけに聞こえます…。
心の中で鳶慈はそうツッコミを入れてしまう。
とても声には出せないが。
「まあ、とりあえず顔見せをしたということで、今日は別の所を見るといい」
「はあ…」
医務室から離れてしばらく、紀阿がこそっと鳶慈に言った。
「と、言いつつね、櫻己さんは手術狂だし、知鎧さんは解剖狂なの」
ああいう風に、目の前でその様を見たのは初めてなんだけど、と。
どうやらココにまともな医者はいないようだ。
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