「えーと、図書館と給食室と医務室と…。特殊な部屋は全部見たかなぁ…?」
紀阿が、今まで鳶慈に見せた所を指折り数えた。
「後は、それぞれの部隊のお仕事の所とか位?」
それを受けて、琴佳が静かに頷く。
「皆に挨拶するには、全部周らないとならないけど…」
「部隊って、いくつくらいあるの?」
鳶慈がそう尋ねた時。
ドンッ
角から出てきた誰かにぶつかった。
「おっと、悪い悪い。…あれ?」
「ご、ごめんなさい!前をよく見てなくて!」
言いながら鳶慈が前を見ると、顔の左半分を包帯で覆った男と…、
「リーダー!大丈夫ですか!?てめぇ!何やってんだ!!」
その男を必要以上に心配している少年。
耳が上に尖って長いところを見ると、エルフ系だろう。
「平気だ、ユキ」
男は少年をなだめつつ、鳶慈の方に向き直った。
「どうしてお前がココにいるんだ?」
鳶慈も、驚きながら男の顔をまじまじと見てしまった。
「宙爲(そらゐ)さん?宙爲さんもココに?」
少年は、宙爲と鳶慈の顔を交互に見ている。
「…リーダー…、コイツの事、知ってるんですか?」
鳶慈が宙爲にぶつかった事に対して、ものすごーくイライラしてるようだ。
「ああ、鴇慈の弟で、昔何度か会った事がある。ユキ、挨拶」
宙爲にそう言われて、少年はしぶしぶ鳶慈に顔を向け言った。
「遊々(ゆきなが)だ」
「僕、鳶慈。迢さんの村に住んでる以外のエルフを見たの、初めてだよ…」
エルフは、あまり森から出て来ないと聞いたことがあるのだが。
すると、
「俺はハイエルフだ!エルフと一緒にするな!!」
そう、怒鳴られてしまった。
そうなる事がわかっていたのか、宙爲は遊々の頭を軽く叩く。
まるで、小さな子供をなだめてるかのようだ。
「ユキ、落ち着け。いやー、しかし久し振りだなぁ、鳶慈」
「はい、宙爲さん、お元気そうで何よりです」
「元気って言うかなぁ…、暇で仕方ないんだよな、俺たち。語れば長くなるんだが、俺たちの部隊は――」
「宙爲さん」
本当に長くなりそうな話が始まった途端、紀阿が口を挟む。
「さっき、砂さんが手伝って欲しい事があるって言ってましたよ」
「…砂が?俺に?……また?」
「『嫌なら夕食抜きって伝えて』って」
すると、宙爲はゲンナリした顔を浮かべる。
「…ったく…。俺らが暇だってわかってるからいつもいつも仕事頼みやがって…」
しかも食事を作る者特有の、『ご飯抜き』という最大の武器を使って。
「どうせ食料庫からアレ持って来いだの、高い所のアレとってくれだの…」
わなわなとしながら愚痴る宙爲に、遊々が賛同する。
「リーダーにあんな仕事頼むなんて許せませんよ!!」
「な!そうだよな!!」
同意を得たせいか、宙爲は声を大にして言う。
「第一、たった1歳しか違わないくせに、何故砂はあんなにも年上ぶって」
「あたっしーが見る限り、君があんまりにも子供っぽいからでしょ」
「!?」
愚痴に調子が出てきたところで、突然のツッコミ。
全員の目が点になった。
いつからなのかわからないが、紀阿に伝言を頼んだ張本人がそこにいたのだ。
「い、砂!いつの間にそこに!!」
焦る宙爲に、砂はニコニコと笑いながら言った。
翌がいないので普通に。
「そーね、『……また?』って辺り?」
つまり、砂に対する愚痴は全部聞かれていたという事で。
宙爲の背筋がピシッと伸びる。
「砂さん、参りましょうか」
さっきとはうって変わった口調で、穏やかに砂を促した。
ひきつった笑顔と冷や汗が痛々しい(笑)
「いーのよー?別に手伝いなんてしなくてもさ」
「いや、とんでもないです。是非ともお手伝いさせて下さい。はい」
「リーダーが行くなら、俺も行きます!」
そんな会話を交わしながら、3人は給食室の方へ行ってしまった。

「よっぽど夕飯抜きって辛いんだね…」
というか、酷い目に遭わされた事があるんだろうな、と鳶慈は思った。
そうでなければ、『夕食抜き』と言われたくらいであんなに態度が変わるわけが無い。
紀阿が、苦笑しながら言った。
琴佳も何も言わないが苦笑している。
「砂さんの『夕飯抜き』には言葉が隠れててね」
「言葉が隠れてる?」
「『1週間以上夕飯抜きで、朝食と昼食は嫌いな物づくし。残したら3食抜きになるよ』ってことなんだって」
「うわ」
1食抜かれる上に嫌いな物だらけで、残せない。
それが1週間とは確かに辛い。
「コレだけ聞くと、まるで砂さんが酷い人みたいだけど、そうじゃないんだよ」
フォローって意味じゃなくてね、と紀阿が付け加える。
「さっき宙爲さんが言ってた通り、宙爲さんの部隊って特殊だから普段とぉ〜っても暇なの」
『とぉ〜っても暇』という部分を腕を大きく広げるアクション付きで強調する。
「だから鴇慈さんが砂さんに、『何か仕事をやってくれ』って頼んだって」
多分文句言うだろうけど適当にサボった時の罰かなんかつければ平気だろう、と。
「鴇慈さん、宙爲さんが暇そうにしてるのが可哀想だと思ったんだよね、きっと」
「そ、そうかな…」
彼の事だ。
恐らくそんな深い意味あっての言葉ではなかったのだろう。
鳶慈はそう思う。
住んでいる所こそ6年離れていたとはいえ、伊達に15年間彼の弟をやっているわけではない。
――根源は兄さんか…。
恐らく鴇慈も、砂がそこまでの罰をつけるとは思ってなかったのだろうが。
鳶慈は給食室の方を振り返り、宙爲さんごめんなさい…と心の中で呟いた。
「それで、宙爲さんの仕事って?」
「除雪決行部隊部隊長。つまり、雪かきってことね」
耳を疑いつつ、そんな部隊があって良いものなんだろうかと鳶慈は思った。

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