宙爲とぶつかった角を曲がると、扉が半分開いた部屋が見えた。
プレートの文字は『通信回路連結部隊』
「あれ?ココの扉が開いてるなんて珍しいなぁ」
そう言って紀阿が近付こうとした時、白いウサギ耳がひょっこり姿を見せた。
「あの耳は…淑沙(よしすな)君?」
その声に反応したのか、耳がこっちを向く。
そして、小柄な少年が出てきた。
「紀阿ちゃんと琴佳ちゃん?それから…」
鳶慈を見て、首を傾げる。
「鳶慈君だよ。私たちと同期で鴇慈さんの弟さん」
気付いた紀阿が、今日何度目かわからない紹介をした。
すると少年――淑沙は、ゆっくりとした動作で手をポンと叩いた。
「朝、迢さんが言ってた?……えと、僕は淑沙。これから宜しくね」
ニッコリと笑って手を差し出してきたので、鳶慈も笑って握手した。
「よろしく」
先程の遊々と違って、穏やかな性格のようだ。
鳶慈はちょっと安心した。
――悪い人じゃないと思うけど、遊々君はあまり僕の事気に喰わないみたいだし。
実際遊々は宙爲の事以外何一つとして気にしているわけではないのだが。
鳶慈が気に喰わないとか、別にそんな事を考えてなどいないだろう。
あの時はたまたま、宙爲にぶつかったから鳶慈が気に喰わなかっただけで。
「あ、紀阿ちゃん」
ふと淑沙が声を出す。
「なぁに?」
「鈴琶ちゃん見なかった?」
「ううん、見てないよ。今いないの?」
「うん」
困ったな、という感じで人さし指で頬の辺りを掻く淑沙。
ウサギ耳がピコピコと動く。
と。
ピコンッとそのウサギ耳が何かに反応し、淑沙が振り返った。
「鈴琶ちゃんだ!」
「え?」
淑沙が見た方向には、確かに少女が1人。
ピンクの髪にふわふわの耳、同じく尻尾。
でも別に、足音が聞こえるような歩き方はしていない。
――便利な耳だなぁ〜。
鳶慈はそんな事を思う。
自分には、足音なんて聞こえなかったのだ。
「やっほ〜、こんにちは〜!」
少女は、可愛らしい声で元気よく挨拶をしてきた。
「えっと、はじめまして。私、鈴琶。どうか宜しくね」
そう言って差し出された手もまたふわふわの獣毛で覆われている。
人間と同じく5本の指に分かれているが、所謂獣の手、そのもの。
肉球までちゃんとある。
握手すると、不思議な柔らかさだ。
けれど、淑沙と違って何の動物が元なのかわからなかった。
鈴琶はぐるりと鳶慈の周りを一周して、えへへと笑った。
「やっぱりそっくり〜」
「え?やっぱり?」
うんうんと頷きながら、鈴琶は応えた。
「私、貴方が来た時たまたま見かけたの。すぐに鴇慈さんの弟さんだってわかったよ」
それで思わず、皆に報告しちゃった、と。
多分、噂とかが大好きなタイプなのだろう。
揺れる尻尾がとても嬉しそうだ。
「だからココに来るの遅くなっちゃった。ゴメンね、淑沙君」
「いえ、大体大丈夫なんですけど、ちょっとわからない所が…」
「了解了解〜。任せておいてね」
自身満々に部屋に入っていった鈴琶だが。
ガガガ…
「あっれ〜?」
ブチ
「………きゃあぁ〜!どうしよう!!淑沙君、誰か呼んで〜!」
すぐに焦りに焦った声が辺りに響いた。
「あら〜…またですか…」
対して淑沙は至って冷静。
窓の外に向かってゆっくりと大声を出した。
「あの〜、また機械がおかしくなっちゃったみたいです〜!」
すると遠くから笑い声が聞こえた。
「あははははははっ!また、まただってよ!ほら、行ってやれよ翔汰!」
その声の後、金髪の少年が窓の所に走ってきた。
因みに、ココは1階なので楽々身を乗り出せる高さに窓があったりする。
「今度はどうしたんだって?」
苦笑しながら優しく尋ねる。
「中で鈴琶ちゃんが…」
「俺、機械得意なわけじゃないんだけど…。あ、そこの非常口開けてくれる?」
淑沙は、すぐに扉の鍵を開けた。
非常口から中に入ってきて初めて気付いたように鳶慈を見る。
「あれ?君もしかして…」
「はじめまして。今度からお世話になる鳶慈です」
「ああ、やっぱり。鈴琶が言ってた通りだね」
つまり鴇慈にそっくりだと。
鳶慈も流石に言われ慣れた。
別に嫌なわけではないし。
「恵方!ちょっとこっち来いよ!」
翔汰は窓の外に呼びかけた後、鳶慈に微笑みかけた。
「俺、翔汰。それでこれから来るのが恵方。鴇慈さんの部下だよ」
「兄さんの…」
そういえば先程夜栄と会った時に紀阿が『不発弾処理班』と言っていた。
それは具体的に何をやっている所なのか訊いてみようとした所で、大きな声が辺りを包んだ。
「何だよ、翔汰!って、あああ!!鴇慈さんの弟!?」
鳶慈はビックリして思わず窓の外を見た。
何故か大きな杓文字を持った、オレンジ髪の少年――表現的に『男』の方が合ってそう――が近付いてくる。
「うっわ、マジでそっくり。でも思ってたより小さー!」
そう言いながら、いきなり窓から飛び込んできた。
翔汰より多少性格が野生系(何)なのかもしれない。
「声大きくてちょっと荒っぽい所あるけど、良いヤツだから」
驚きで少し呆けてるような鳶慈にそっと声を掛けて、翔汰は鈴琶の所へ行った。
「で、どうしたんだよ鈴琶…」
翔汰の声が、部屋の中へ消えていく。
淑沙もその後に続いた。
紀阿が笑いながら言う。
「良いんですか〜?窓から入ると、また迢さんに怒られますよ?」
すると恵方は肩をすくめて言う。
「平気平気。どうせ迢さん団長室か企画部屋だろ?あんなちょっとの距離、歩いてられねぇよ」
と、非常口を指差す。
この様子からすると、いつも何処かの窓から飛び込んでは、迢に怒られているに違いない。
恵方が、いくつか鳶慈に他愛ない質問をしているうちに、翔汰が戻ってきた。
「お?早いな。直ったのか、翔汰」
「うん、直ったっていうか…」
「ありがとう翔汰君〜…」
後に、尻尾が元気なく垂れた鈴琶が続く。
通信機器がちょっと変な音を出したので、慌てて電源をオフにしてしまっただけの事だったらしい。
あまりに鈴琶が騒ぐので一通り点検してみたが、特におかしな所は無かった。
「良い?少しくらい変な音が出ても、慌てないようにね」
「はぁ〜い…」

 それぞれが仕事に戻っていったので、鳶慈たちも団内探検というか挨拶回りというか。
まあそんな感じの事を続けることにした。
「鈴琶ちゃん、キーボード打つの凄く得意なんだけど、機械自体は苦手なんだよね〜」
今まで見てきた所を振り返ると、団内は非常に賑やかなメンバーばかりなようだ。
――飽きなくて良いかも…。
そんな事を考えてしまう鳶慈だった。

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