さて、鈴琶たちの所から少し歩いた時。
「……トキ……?」
後ろから声が聞こえたので、鳶慈は振り返ってみた。
すると。
「トキ!お前一体どうしたんだ!!」
白のような銀のような髪をした、額に第3の瞳のある男が物凄い勢いで走ってきた。
いや、走ってきたというか、浮いているから飛んできたというか。
あっという間に3人のすぐ傍に来る。
「…え!?」
突然の事に、思わず鳶慈は身構える。
何しろその男、服装が妙に派手で、何となく怪しい。
しかし、そんなことには構わず、男は鳶慈の肩を掴んでガクガクと揺さ振った。
「何があった!?言ってみろ!何故こんな縮んでしまって…!!」
「え?え?」
肩を揺さ振るのを止めたと思いきや、今度は頭をポンポン叩いたり、髪を撫でてきたり。
「あああ…、髪の色まで変わって…。本当に一体どうしたというのだ!?」
――な、何なんだこの人…!?
鳶慈は抵抗する間もなく、頬を伸ばされたり頭をグリグリ撫でられたり。
…が、ふと男の最初の言葉を思い出す。
『……トキ……?』
――もしかしてこの人、僕と兄さんを間違えてるんじゃ……。
「あ、あの、僕…」
鴇慈じゃなくて、その弟の鳶慈です。
そういう言葉が続くはずだったのだが、それよりも先に男が大声をあげた。
「『ぼ・く』!!俺様が!俺様が知ってるお前はそんなじゃない!!」
「いえ、あの、だから…」
「旨篤(しすみ)さん、鳶慈君です。鴇慈さんじゃないです」
紀阿もようやく声を出したが、男――旨篤は全然聞いてないようだ。
「声まで違うーーっ!」
別人なんだから当たり前だ。
どうしたら良いだろうと思っていたら、今度は少年の泣き声が聞こえてきた。
「うわーーん!変わった人…っていうか魔族だとは思ってたけど、ついに旨篤さんが壊れちゃったよぉ〜っ!!」
すると、旨篤はすぐにその声に反応した。
「漉火(ろくか)!何処にいる?男がそう簡単に泣くなといつも言っているだろう!しかも壊れたとは何だ!」
「だって旨篤さん、その子の事鴇慈さんだって言うんだもん〜」
ようやく姿を見せた少年は、涙を拭きながら鳶慈を指差した。
旨篤はその指の先を確認した後、溜息をつきながら言う。
「人に指を差すなとも言った筈だ!まったく、お前は…」
変な所で細かい魔族だ。
しかし、漉火のおかげでようやく旨篤は気付いたようだ。
「…ふむ。貴様、トキではないな?一体誰だ?」
自分が勝手に間違えたくせに、腰に手を当てて偉そうに訊いてくる。
しかもついには『貴様』呼びだ。
すると漉火がその前に出てきて、鳶慈の手を取って言った。
「ごめんねぇ。旨篤さん、思い込み激しくて…。僕漉火。君、鴇慈さんの弟でしょ?」
さっきまで泣いていたのは何処へやら、ニコニコと笑っている。
――左右の瞳の色が違うし…、女の子みたい。
鳶慈は思う。
身長が同じくらいなのでよく見えるのだ。
「うん、鳶慈っていうんだ」
「漉火君来てくれて助かっちゃった」
紀阿も話に混ざって和気藹々としている所に、旨篤が訝しげな顔を向けた。
「……弟…?」
鳶慈を頭の天辺からつま先まで見る。
そして、ポンと手を叩いた。
「ああ!今朝、迢が言っていたのはお前の事か!」
あまりに今更である。
「いや、すまなかった。俺様は旨篤。トキと同期の素晴らしい団員だ」
自分で『素晴らしい』とか言ってて恥ずかしくないんだろうか。
そんなツッコミも受け付けないほどに、旨篤は堂々と言い切った。
「トキの弟とあらば、俺様の弟も同然!兄と思って慕うが良い」
そういって、機嫌良く笑った。
悪気とかそういうのは無いけれど、デフォルトで偉そうらしい。
鳶慈はそれを肌で感じ取った。
「よ、よろしくお願いします…」
「うむ」
満足そうに頷くと、旨篤はくるりと背を向けた。
「こうしてはおれん。夜栄にもお前の事を伝えねばな」
そしてくすくすと笑う。
「アイツは俺様などよりはるかにボーっとして鈍いから、きっと言われてもお前をトキと間違えるであろう」
いや、もう既に夜栄とは顔を合わせている。
…が、あまりにも旨篤が楽しそうなので、鳶慈たちはそれを言い出せなかった。
……しかも。
ボーっとしているがゆえ、逆によく観察していたのか、はたまた実は旨篤よりも鈍くないのか。
夜栄は間違えなかった。
そんなことは、とてもじゃないが言えそうに無い。
「あ、旨篤さん待って下さいよぉ〜」
それじゃあね、と言って漉火がその後を追っていった。

 2人の姿が小さくなったので、鳶慈はポツリともらした。
「何だか凄い人だね…。あ、魔族って言ってたっけ」
すると、珍しく琴佳が声を出した。
「でも……とても良い方なんですよ」
「うん。面倒見も良いしね」
紀阿もそれに同意する。
人だけではなく魔族も見た目では判断してはいけないという事だろうか。
それもまた妙な話である。


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