挨拶も終わったという事で、鳶慈は団長室に戻ってきた。
途中までは紀阿が一緒だったので、何とか迷わずに辿りつく。
「ただいま戻りました」
そう言いながらドアを開けると、迢が迎えてくれた。
当然その奥には、例の団長(代理生物)が座っているわけだがどうにもまだ馴染めない。
「どうだった、鳶慈?」
その問いかけに、鳶慈は笑いながら応えた。
「ええ、何だかとても楽しそうです。皆さん個性的で」
そこへすかさず団長(代理生物)がツッコミを入れる。
「つまり『皆変だった』って事だろー?言葉に詰まった時の常套句だよね」
すると、迢がサッと手袋をして団長(代理生物)の頬の辺りをつねった。
敏感肌な彼は、得体の知れない生物(失礼な)を直接触るような真似はしないのだ。
「だ〜ん〜ちょ〜う〜…。これから貴方の補佐をするモノに、そういう事を言わないで下さい」
ボソボソ言っているが、そんなに広い部屋ではないので何を言ってるかよくわかる。
鳶慈は、そのツッコミより何より、今迢が言った『貴方の補佐をするモノ』という言葉の方がよほど衝撃的だった。
――……ほ、ホントにアレで僕が団長補佐になるって決まってたんだ…。
しかし、団長(代理生物)はめげない。
「だって、これから補佐をするからこそ、団長の性格をよく知っておく事が大事だろう?」
そして迢の手を払って鳶慈の方を見た。
「ねー。お互い何も包み隠さず言い合う方が、ストレスたまらないだろうからそうしよう」
とか言いながら、ちょっと邪な笑みを浮かべて続ける。
「でもあんまり酷い事言うと団長たる権限を使っててててていていてて!」
最後まで言わないうちに、また頬が迢の手につねられていた。
みよーんと、面白いくらいに伸びる。
「いい加減にして下さい」
既に怒りを帯び始めている声を察し取り、団長(代理生物)はつねられた所をさすりながら話題を変えた。
「で、部屋なんだけど、鴇慈と一緒で良いかい?」
「え?は、はあ。別に構いませんけど」
「コレは迢からの提案でね。君が一緒にいれば、鴇慈も少しは生活変わるんじゃないかって」
――それは…無理なんじゃないかな…。
少しひきつりながら、鳶慈は乾いた笑いを浮かべた。
団長(代理生物)も楽しげに言う。
「まー、あの鴇慈のことだから無理だと思うんだけどねー」
そして、手元のスイッチを入れて横のマイクに向かって言った。
「鳶慈の了解取ったからベッド入れといてー」
淡々と事が運んでいくのを見ながら鳶慈はふと思う。
「あの、兄さんはそれで良いって言ってたんですか?」
迢は首を横に振った。
「いや。でも大丈夫だろう」
個人の意思が尊重されるんだかされないんだか、結局よくわからない所である。

 さてはてその夜、8時を過ぎた頃。
夕食も済ませて言われた部屋に行ってみると、ベッドが2つそれぞれ右と左の壁際にセットされていた。
団長室に置かせてもらっていた荷物まで、いつのまにかココに置いてある。
部屋の中が思っていたより綺麗なのは多分、鴇慈が面倒臭がってモノをあまり置かないせい。
それから新しくベッドが来るという事で、鴇慈以外の誰かが掃除をしたせいなのだろう。
――兄さん、まめに掃除するタイプじゃないもんなぁ〜…。
しかし、この掛け布団のセンスは一体誰のものだろう。
鳶慈の荷物が置いてある、つまり恐らく鳶慈が使う事になるのであろうベッドには『日々精進』と。
もう1つのベッドには『一蓮托生』と、それぞれ筆で書いたような文字でどーんと描かれていた。
――別に柄なんてどうでも良いけど…。
そう思っていた所でドアが開いた。
鴇慈だ。
「お、鳶慈。もう寝るのか?」
言いながら、洗面所に行って歯ブラシを手に取る。
「そんなわけないでしょ。…ま、まさか兄さんはもう寝るの?」
歯を磨きながら時計を見て、鴇慈は答えた。
「そうだなぁ。9時には寝るけど。だってそうじゃないと9時に起きられないからな」
9時寝9時起き。
確かに昔から鴇慈は12時間寝ないと駄目とは言っていたが。
「だって…さっき僕、夜会と朝会の時間聞いたけど…」
夜会が午後10時、朝会は午前6時半からだ。
すると、鴇慈は笑って言う。
「そんなの出たことねぇよ、俺」
鳶慈は愕然とした。
こんな所に来てまで、何とマイペースな兄なのだろうと。
「迢は出ろってうるさいけどな。別に大したことやってないだろうし」
鴇慈は歯磨きを済ませて洗面所から出てくると、鳶慈の前に立った。
「でも、今朝のは今日お前が来るって、凄い事言ってたみたいだけどな」
そして、優しく鳶慈の頭を撫でた。
「ホントに…よく来たな…」
真面目な顔で言われ、何となく照れながら鳶慈は拗ねたように言う。
「だって、兄さんホントに唐突だったじゃない。僕、どうしようかと思ったんだから」
それに対して鴇慈は苦笑した。
「………ゴメンな。淋しかっただろ」
何か言い訳をするだろうと思っていたのに、素直に謝られて鳶慈は口篭る。
もう少し、色々文句を言おうとも思っていたのだが…。
「…えーと…、せめてもう、いきなりはやめてね」
苦笑いを浮かべて、やっとそう言った。

 これからココで、新しい生活が始まるのだ。
兄と、それから他の仲間たちと。
――僕は、ココで僕が出来る事を探すんだ。
明日から、どんな毎日が待っているんだろう。
窓から星空を見上げながら、鳶慈はそう思った。
兄が何故ココへ来たのかも、ココにいればいつかわかるだろう、と。


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