「はよーッス」
翌日の午前九時過ぎ頃、それはもうスッキリサッパリ晴れやかな顔で鴇慈が食堂に顔を出した。
それを見た砂が、ニッコリと笑いながら雑炊を彼の前に置く。
「はい、朝ごはん」
「……いや、普通ので良いんだけど」
そんな鴇慈の訴えにも、砂は表情を崩さない。
「トキ君昨日の夜も何も食べてないし、あんまりいきなり食べると胃に良くないでしょー?多分」
よく噛んで食べてー、と付け加えながら向こうへ行ってしまう。
まあ、砂が言いたい事はわかるので、まずはそれを有り難く頂く事にした。
にんじんに少々躊躇うも、彼女の事だから嫌いでも平気なように作ってあるのを知っているので蓮華を入れる。
と、そこへ。
「トキ!!」
大きな声と共に、飛びつかんばかりの勢いで飛んで来る旨篤が現れた。
「全くお前はいつもいつも心配を掛けて!」
肩をガクガク揺さぶられながら、鴇慈が苦笑する。
「雑炊が飛ぶから落ち着け」
「そんな物が飛ぶからといって、落ち着いていられるか馬鹿者ー!!」
騒ぎ立てる旨篤の足元からゆっくり夜栄も登場した。
「……もう平気なのか…」
「…お前はまたそんな所から…」
「せめて俺様からもう少し離れて出て来い!踏んだらどうするんだ」
「……すまない……」
ススス……。
「もう出て来たのだから戻らんでも良い!!」
騒ぐ対象が自分から夜栄に移ったので、鴇慈は二人の様子をクスクスと笑って見ながらさっさと雑炊を食べ終える。
「砂ー、やっぱり足りない」
「はいはーい」
言われるのがわかっていましたと言わんばかりに、すぐさま普通の食事が出てきた。
「トキ君は肉体労働系だしねー。そーなるとは思ったんだけど。あ、にんじんちゃーんと食べられたー?」
「おかげさんでな」
「偉い偉いー」
満足そうに微笑んで、砂は再び調理場の方へ戻って行く。
新たな食事に手をつけ始めると、ようやく落ち着いたらしい旨篤が言った。
「無理をするのではないぞ、お前は…」
「頑張り過ぎだ…って?」
意外な鴇慈の反応に、旨篤はきょとんとした顔を浮かべる。
「何だ、わかっているのではないか」
「その台詞、聞き飽きてきた」
「俺様はまだ自分の口では言ってもいない!」
「違う違う、お前だけじゃなくて、琥香とか迢とかにも言われたんだ」
迢の言った通り、本当に皆にそう思われているらしい。
「俺は、頑張り過ぎてなんていないから大丈夫だよ」
食堂を出ると、遊々が廊下にいた。
「あ」
鴇慈の姿を見るなり、大声を出す。
「リーダー、班長起きてます!」
すると、角からひょっこり宙爲が顔を出した。
「ホントだ。鴇慈、もう大丈夫なのか?」
「ああ。驚かせて悪かったな」
鴇慈の言葉に宙爲は、まったくだ、ともっともらしく頷く。
「そりゃもうビックリしたぜ〜?まさかお前がいきなり倒れるとは思ってなかったからなぁ」
「俺も、あそこで倒れるつもりは無かったんだけどな」
「ま、大丈夫になったんなら良かった」
「ん」
「もうリーダーに、お前みたいな重いの運ばせるような真似するなよな!」
横から遊々が口を尖らせながらそんな事を言うので鴇慈は、はは〜んと少し意地悪そうな笑みを浮かべる。
「『もう倒れるな』って、お前も心配してくれてるんだな」
よしよしと頭を撫でてやると、狼狽するように一歩下がる遊々。
「だっ!誰が!!俺はただ、リーダーの事を…!!」
「はいはい、悪かった悪かった。もう倒れません」
「馬鹿にしてんのかお前!!」
「そういうつもりは無いけど。……あ、そうそう」
まだ何か言いたそうな遊々を軽く手で制しながら、鴇慈は言った。
「お前達は、『頑張り過ぎ』なんて言うなよ」
「は?なんだそりゃ?」
全く意味がわからないという表情を浮かべる宙爲をそのままに、鴇慈は外へ出て行った。