何となく張り詰めてしまった空気に気付き、鳶慈は焦った。
「え…と…アレ?」
――まずい事言っちゃったのかな…?
思わず紀阿たちの方を見るが、彼女たちも首を捻るばかりである。
さて、どうしたものか…と思っていたが、ようやく迢が口を開いた。
「――会長の朝基…あのへらへら笑っていた男が、体を壊したんだ。恐らく今もまだ完全では…」
しかしまた団を訪れたという事は、だいぶ良くなったという事だろうか。
そういえば仁紫の態度が少しおかしかった、と迢は思った。
元々彼は朝基至上という所があったが、いつにもまして妙に彼を気遣いすぎていたような…。
「俺もちょっとお尋ねしたいんデスが…」
珍しく慧史がおずおずと手を上げた。
「何だ?」
「あの朝基って人は何なんデス?あの時何が起こったかわかりませんが、迢さんが結界を張る程の事なんて…」
「奴は人間ではないのだ」
それには旨篤が答えた。
「奴はプレディクター。『ワーカー』という、人間を自在に操作する力を持つ種族」
ざわっと辺りが騒がしくなる。
「ただし」
旨篤は静めるように言った。
「『人間』だけなのだ。ゆえに、俺様や迢のように人間以外の種族には影響が無い」
「じゃあ、私とかは駄目なんですね?」
難しい顔で問う紀阿に、黙って頷く迢。
「ただし、俺様の力と違って、心ごと操ってしまうからタチが悪い」
因みに旨篤の言う『俺様の力』というのは、第三の瞳を使って他人を思うままに操る魔族特有の能力のことである。
こちらは種族は関係無いが、体を操るだけなので、非常に精神力が強い者には通用しない。
しかも、自分と他人を一気に面倒見なければならなくなるので、体力・精神力共に激しく消耗する。
だから、余程の事が無い限り使うことは無い。
無論、その辺は朝基のワーカーも同様である。
「どうすれば防げるんですか?」
『人間』ではないので、本人に影響は無いのだが、やや不安気に翌が尋ねた。
周囲の仲間が操られてしまえば、危険になる事に変わりは無い。
「基本的に朝基の目を見ない、視界内に入らない。だから禾に壁を下ろさせた」
朝基が来るようになってから団内が改造されたらしい。
「迢の結界でも防げるが、それは負担が大きすぎるから最終手段だ」
天井から禾の声がした。
確かに、朝基が来る度に結界を張っていたのでは、迢の体がもたないだろう。
「俺の結界でも大丈夫なのか?」
珍しく遊々が話に加わる。
ハイエルフは、範囲が多少狭くなるがエルフより強力な結界を張ることができるのだ。
迢は、勿論だ、と答えた。
「リーダー。リーダーは俺が守ります!」
「ユキ…」
じーん…という効果音を背負いながら、宙爲は遊々の頭を撫でた。
後ろから十両が、俺達もだろ!?と小さくツッコミを入れる。
「目で見える範囲というのがポイントだとすると、僕の壁では無理なのでしょうか」
翌…というかロストガーデナーは、全ての言語を解するのともう一つ、見えない壁を操る能力を持っているのだ。
もし防げるのなら心強い。
しかし迢は首を横に振った。
「ロストガーデナーの壁については、今度詳しく調べてみよう。こればかりは実験するわけにもいかない」
へらへらしていたが、何とも恐ろしい能力を持っているものである。

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