三人になった後は、暇だなどと思う時間が全く無かった。
辺りを見回しながら何かと文句を言ったり自慢げにたくさんの事を話す旨篤。
話を聞いているのかいないのか、的外れな事ばかりを言う夜栄。
「お前…本当に話を聞いて答えているか?」
「旨篤はたくさん喋るな…」
「お前たちが何も話さないから俺様が話してやっているのだ」
「……そうか…。凄いな…」
「凄い?…ふむ、そうか、凄いか。凄いであろう」
自分が黙って歩いていても、どんどん楽しい会話が耳に入ってくるのだ。
そんな様子を笑うと旨篤が怒るので鴇慈は我慢していたが、どうしても口の端が震えてしまう。
「トキ、どうした」
「いや、何でも」
――案外目ざといなぁ。
とりあえず口元にそっと手をやり隠しながら、旨篤と違う方向に顔を向けておく。
すると、ススーッとゆっくり移動していく視界の中に、途切れている道が入った。
「おかしいな、道が終わってる」
足を止めて道の先を見るが、やはり途中で無くなっていた。
ただし、崖になっているなどという事は無く、道と草が唐突に消えて地面がバーッと広がっている状態である。
「…今までも道の先に何も無いとしか思えぬ所だったが、より一層何も無くなってしまったではないか」
やはり騙されたのだと旨篤はブツブツ呟く。
「ホントに何も無いなぁ…」
鴇慈はむしろ感心したように辺りを見回していた。
「もう少し怒ったらどうなのだ」
旨篤がムッとした顔になった時、少し先に進んで様子を窺っていた夜栄が二人を呼んだ。
「向こう…何かある…」
夜栄が指し示した先に、確かに何かある。
「せっかくだし行ってみるか」
「このまま帰るのでは癪に障るから、当然行くに決まっているだろう」
浮いているのにズンズンと足音が聞こえそうな程背中に怒りを背負いながら、旨篤が先頭に立つ。
スーッと今までの倍くらいのスピードで向かって行った。
「…とても怒っているな…」
「あんなに怒る事は無いのになぁ」
ゆっくりと二人が後ろからついていくと、ある地点で旨篤が止まったのが見えた。
「何があったー?」
鴇慈が呼びかけてみると、旨篤が何も言わないまま嫌ーな顔で振り返る。
「…どうしたのだろう…」
二人が走っていくと、旨篤の足元に先ほど見えた何かがあった。
「何だコレ。……テント?」
そう、そこにあったのはテント。
ただし、普通の人間サイズではなく、かなり小さめ。
そして…。
「あ、別の誰か来た?この人話にならなくてさー」
そう言いながら、中から白くて丸い柔らかそうなモノが出てきた。
どうやらそれは頭だったらしく、続いて取ってつけたような体も出てくる。
見た事が無い生物(推定)だ。
全身で25〜6cmくらいなので、人間用と比べると遥かに小さなテントにいたらしい。
「………」
夜栄が黙ったままとりあえずツンツンと触ってみた。
ツンツン。
「柔らかい…」
「はっはっは〜。気持ちが良いだろう。…じゃなくて!ちょっと君馴れ馴れしいんじゃないか!?」
胸を張って自慢した後、短い手でペシッと夜栄の指をはらう。
所謂ノリツッコミというヤツである。
「…すまない…」
夜栄はしゅんとしながら手を引っ込めた。
「触りたくなる気持ちもわからないではないけれど、せめて一言断ってからにしてくれよ」
コクリと頷いて、夜栄が小さな声で言う。
「触ってみる…」
「よし、許可を出そう」
ツンツンツンツン。
「柔らかい……」
「はっはっは〜。気持ちが良いだろう」
「ええい!お前たち、今はそんな事をしてる場合ではなかろう!」
永遠に続きそうな夜栄と謎の生物のやり取りに、ついに旨篤が怒り出す。
「一体お前は何者なのだ?こんな所にこんなテントを張って何をしている!?」
すると謎の生物はムッとした様子で旨篤を見上げた。
「コラコラ、人の事を尋ねる前にまず自分からだろう。君たちこそココで何をしているんだ。…ん?」
ついでに隣にいた鴇慈を見て、少々考え込む。
ポン。
手を叩いたつもりらしいが、手の長さより体の幅の方が広いので届いたような届かないような。
まあともあれ、閃いたのか思い出したのか。
「君は確か北斗七星団への入団志望者だね」
と、そう言った。
コレには流石の鴇慈も少々驚いたようである。
「ああ…確かにそうだけど…」
そう答えると、謎の生物が嬉しそうにひょいひょいと動き出す。
「いやー、待ってたよー。ようこそ、我が北斗七星団へ!」
その言葉に、鴇慈より先に旨篤が声を上げた。
「『我が』!?どういう事だ!?まさかお前が団の…」
「うん、団長」
即答。
「そんな馬鹿な!」
いきなり全否定。
「何だ何だ、失礼だなぁ。…ホントだよ?」
モジモジと照れたように言うその謎の生物を、旨篤は危ないものを見るような目で見た。
「トキ…やはり帰った方が良いのではないか?」
「あー!そういう事言うなよー!せっかくの入団志望者なのにー!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら反抗し、そのまま鴇慈の方へ行く。
「ちょっと見た目頼りないかもしれないけど、コレ、一応仮の姿だから!ね?」
「頼りないというより怪しすぎだろう…」
旨篤は尚も嫌そうに言ったが、鴇慈は一通り謎の生き物を眺め回した後、うんと一度頷いた。
「ま、団長だって言うなら仕方ないな。これから宜しく」
「トキ!」
旨篤の不満の声も何のその、さっさと荷物を置いて一休みする鴇慈。
「ほら、コイツ見てたらわかるじゃん。『徒歩七時間』って。今歩いてきた距離、コイツなら掛かりそうだし」
短い手足を指差す。
頑張って前後に動かしても、殆ど進みそうにない。
「それに、連絡した時の喋り方もこんなだったし、少なくとも広告主がコイツなのは確かだよ」
「そうそう、嘘ついてないよ!」
調子に乗ってくるくる回る団長(代理生物)をギュッと上から押さえながら、旨篤はまだ文句を言う。
「広告主なのは確かかもしれないが、ココの一体何処が戦闘団だというのだ!」
広がる何も無い地面と、ポツリと一つだけある踏み潰せそうに小さなテント。
「あー、それはね」
団長(代理生物)がすかさず答える。
「まさか志望者がいるとは思ってなかったから、まだ建物が出来てないんだよ」
ゴンッ
言葉と同時に旨篤の拳骨が飛んだ。
「馬鹿者!全て準備を終わらせてから募集を開始せんか!」
「ごめーん」
頭のてっぺんに手が届かないので、殴られた所を夜栄に撫でてもらいながらてへへと団長(代理生物)が笑う。
「多分もうすぐ届くから。別の所で建てて、それ持ってきてもらうんだ」
「土台などはどうするというのだ」
「まあ、あんまり細かい事気にしちゃ駄目だよ」
「細かくない!」
「若いのに怒りっぽいねぇ」
「お前が適当すぎるのだ!」
もう一度拳を握る旨篤からヘロヘロと逃げ出しながら、団長はテントの中から色々出してきた。
人間サイズ用のテントの材料や寝袋その他。
あからさまにテントより大きな物も出てきているのだが、細かい事は気にしちゃいけないらしいからそういう事で。
「建物とか揃うまで、適当に作って寝泊りしておいてよ」
何かもう投げっぱなし。
夜栄はテントの材料を見てちょっと楽しそうだが、旨篤は非常に不満そうである。
「ところで、君たちも入団志望って事で良いの?」
そんな二人に団長(代理生物)が声を掛けると、夜栄は普通に、旨篤は更に不満そうに頷いた。
「入る…」
「今更トキをこんな所に一人で置いていくわけにはいくまい」
それを聞いて団長(代理生物)は大喜びである。
「いやー、良かった良かった!ちょっと大きめの建物注文しちゃってさ。一人じゃ可哀想だなぁって思ってたんだ」
どうやら計画性というモノが皆無なようだ。
「あの辺の草が無くなった辺りから向こうの方全部がうちの敷地だから、好きに使って良いよー」
あ、建物はあの辺にこんな風に来る予定ね、と大雑把に指(?)差しながらまたくるくると回る。
跳ねたり回ったりが大好きらしい。
恐らく、全体に小さく手足が短い分、アクションでカバーしているのだろう。
「団長は…本当に柔らかいな…」
回っている団長(代理生物)をまたツンツンしながら喜んでいる夜栄を横目に、旨篤がガックリと肩を落とした。
「まったく……本当に大丈夫なのだろうか…」
そんな旨篤の背中を軽く叩いて、鴇慈が満面の笑みを浮かべる。
「何か凄く、楽しくなりそうだな」
何処がだ、と旨篤が苦い口調で言うので、夜栄が振り返った。



これからはしばらく、この三人(とおまけ)でこんな毎日を過ごしていくのだろう。
鴇慈は、やっぱり来て良かったなと、心の中で思うのだった。

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