それから毎日、授業の時には裡菜の隣に座るが、決して彼女から話し掛けてくる事は無い。
相変わらずノートも何も出さず、窓の外を見ている。
そして授業が終わると、さっさと帰ってしまうのだ。
最近は、知鎧が一人になった時、わっと人が集まってくる。
「何で朱遠君、あんな人の隣ばっかりなの?」
「結局彼女、どういう人なわけ?」
「全然話なんて出来てないじゃん。もう諦めなって」
うーん…と、知鎧は苦笑いを浮かべる。
「何となく隣。面白いぜ。諦めるも何も…話さないのがアイツって感じ」
手短に応えて、人集りを避けるように出口に向かった。
「一体、何がお前をそうまでさせるんだ!」
わざと大袈裟に言う友人の言葉に、思わず吹き出す。
「好奇心、かな」
背を向けたまま手を振る知鎧を見送った後、他の者たちは顔を見合わせた。

本当は自分にだってわからないのだ。
ただ、周りの態度が不満で、裡菜自身の行動が謎で、何となく興味を持った。
それだけの事。
向こうに嫌われて、完全に避けられてしまったりしているならともかく、初めての時と変わらない接し方。
それならばもうしばらく、近くで様子を見ても良いのではないか。
知鎧は、そう思っていた。
それで彼女の事がわかって、自分の謎が解けて、噂が本当にせよ嘘にせよ、真実がわかるなら一番良い。
しかし、向こうからの接し方が変わらないという事は、こちらから尋ねない事には彼女の事が何もわからないという事だ。
けれど、彼女の様子を見ると、『自分の事を訊かれるのは好まない』というのは明白。
長い時間が必要になるのか、それともどんなに長い時間を掛けても駄目なのか。
まだわからないけれど、諦めるには早過ぎる。
とりあえず明日も、いつも通りに声を掛けようと思う知鎧なのであった。

さて、そんな事を考えた次の日。
ついに彼女に変化が訪れた。
「あれ…?」
いつも通り隣に座ったのだが、何かが違う。
服装の雰囲気でも髪型でも、自分に対する態度でもなく…。
「……何」
「あ、いや」
それなりの時間観察してしまった形になり、少々気まずそうに咳払いをする。
何が違うと自分で思ったのかじっくり考えようとした時、教授が教室に入ってきた。
そこで、「ああ!」と声を出しながら立ち上がってしまう。
「…朱遠君?何か?」
教室中の視線を一気に浴びて、知鎧はしまったと思いながら、何でもありませんと頭を下げた。
座り直しながら、隣を見て確認する。
今日の彼女の、何が違うのか。
授業中にページをめくる音。
同じくペンを走らせる手の動き。
そう、裡菜が教材であるテキストを開き、そしてノートを取っているのだ。
4月に始まった授業なわけだが、もう既に世間は夏といっても良い頃合。
何故彼女は今頃、ようやく授業を聞き始めたのか。
しかし、せっかく授業を受けているというのに邪魔をしてはいけないと、帰りに尋ねようと心に決めた。

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