まさかバイトが墓掃除だとは思ってもみなかったが、よくまあ毎日続くものだ。
知鎧は、そう感心した。
しかし、一体何故そんなバイトを選んだのか。
変な謎が増えてしまった。
それくらいなら訊いても良さそうな気もしたが、どうやら裡菜はあまりその事について触れられたく無いらしい。
ならば仕方ないと、自分で勝手に調べてみる事にした。
学校帰りに寄るような所だ、苑からそう遠くないに違いない。
すると思い当たる、墓があるような場所は一ヶ所しかない。
――あんな風に隠してるのに探るのは、あんまり良い事じゃないけどな…。
次の休みに、とりあえず様子見という事で、その寺を訪ねてみることにした。
帰りに寄って済む用事という事は休みでも、そしてもし本当にその寺に来ているのだとしても、午前中なら会う事は無いだろう。
そう思って9時頃に家を出て、半頃にその寺に辿り着く予定だったのだが。
辿り着いてみて実にビックリ。
「……う、裡菜…?」
「何でアンタがココにいるのよ」
ちょうど寺に入る自分と、これから墓の方へ向かうらしい裡菜がはちあわせ。
柄杓と手桶、それから墓に供えるのであろう花を持った彼女は、少々冷たい視線をこちらに向けている。
まさか会わないだろうと思っていたので、もし会ってしまった時の言い訳も考えておらず、知鎧は冷や汗ダラダラになった。
「き、奇遇だな」
本当に奇遇である。
非常に不自然に上げた右手が、細かく震えてしまう。
――ヤバい。これはヤバいぞ!
だが、裡菜はわかっていたというように、まったく…と呟いた。
「アンタに墓の事言えば、顔出すと思ってた」
どうやら、自分の行動はバレバレだったらしい。
考えてみれば、裡菜の事を知る為に近付くという事は、自分も近くで見られているという事だ。
裡菜が、知鎧の行動パターンをある程度読めるようになっていてもおかしくない。
何せ、裡菜と違って知鎧の行動は、実にわかりやすいものだったから。
「…ゴメン」
素直に知鎧は謝った。
「別に良いよ。わかってたって言ったでしょ」
来るとわかっていたけど、教えてくれたというわけだ。
知鎧は、少しホッとした。
「隠してるから、悪いと思ったけど気になって」
「隠してたわけじゃ、無いんだけど。あまり言いふらすような事でもないし」
そう言いながら、スタスタと墓へ向かう。
「それ、俺が持つよ」
裡菜が少し重そうに持っていた手桶を取った時、知鎧は気付いた。
――片岬家…?
それはまだ新しく、綺麗な手桶だった。
「…これ、裡菜の家の?」
「そう、うちの」
そのまま、墓場の中を慣れたように歩いていく。
ついて行きながら辺りを見ると、どの墓も皆綺麗に掃除されている事がわかった。
「ここを…裡菜が掃除してるわけ?」
「そう、どうせいつも来るし、ついでだから手伝う感じで」
何故『ついで』なのか、と尋ねる前に一つの墓の前に辿り着き、裡菜が呟いた。
「ああ、線香…。ちょっと買ってくる」
「俺が行くよ」
「良いの。アタシが買ってこないと駄目なの」
言いながら立ち去る裡菜の背中を見送りつつ、さて、戻るまでどうしようかと、知鎧は思った。
――墓参りは悪い事じゃないだろうけど…、毎日って変わってるよな…。
そう思って何気なく墓を見た時、刻まれた名前と日付が目に入る。
――4002年……って、新しいと思ったら去年じゃないか。男の名前……祖父さんか?
まじまじと墓を観察している最中に、裡菜が戻ってきた。
「…アンタ…他人の墓見過ぎだから」
「ああ、いや、ちょっと」
「水掛けるから、コレ持ってて」
渡された線香を手に、知鎧は黙って立っていた。
水を掛けたり、花を供えたり、一通りの事が終わった後、裡菜が線香を受け取る。
「熱心だな」
そう言うと、裡菜は少し目をそらした。
「一応、親の墓だしね」
「え…」
一瞬、言葉に詰まる。
それを見た裡菜が、苦笑した。
「アンタ…こんな所まで覗きに来たりしてるくせに、今更そんな顔しないでよ」
「そう…だよな」
暫くの沈黙があったが、裡菜が切り出す。
「父親の、墓だよ」