然るべくして


「――で、結局何処なんだよ」
いつまでも裡菜が口を割らないので、流石に知鎧は焦っていた。
このままでは、期限が来てしまう。
さて、何の期限かというと。
「何処で実習するんだ?」
そう、一年の終わりから二年の終わり頃までの実地研修である。
病院と学校両方に通わないといけないとてもハードな期間。
…いや、学校は通うというかテストの為か。
つまり、研修といえど普通の医者と殆ど変わらないことを行いつつ、テストの勉強を常にするというわけだ。
端から見るよりも大変で、この段階で医者になるのを諦める者も多い。
ある意味根気を見るというか…まあ、根気があっても成績に問題も出てきたりして。
ふるいに掛けているというか。
ともあれ、医者の卵達にとって正念場になるのは間違いない。
よって、その研修先は実に重要なのである。
なるべく多くの事を学べ、尚且つ人当たりの良い医者がいる所。
家から近かったりすると、尚更嬉しいわけだけれど。
人気がある病院は、次々に受付を締め切っている。
このままでは何処へ行くのか決まらないうちに、研修期間に入ってしまうのだ。
当然、それまでに決めなければ医者への道が閉ざされる。
――ああもうこうなったら…!
知鎧は突然椅子の上に正座して、隣の裡菜に頭を下げた。
「この通りだ!俺、何処に行くか全然考えてないから!!」
…が、それに対する返事は裡菜からではなく、教室の前の方から聞こえてきた。
「朱遠…。何の事か知らないが、そういうのはせめて休み時間にやれ」
そう、今は授業中であり、先生からのツッコミが入ったのである。
教室中に笑い声が響く。
あははは…と苦笑いを返しながら座りなおす際、裡菜の溜め息が聞こえた。
「何でそんなに一緒の所に行きたがるのさ」
「前にも言ったろ?知ってる奴がいる所が良いじゃん」
すると、じっと知鎧の顔を見て裡菜が言う。
「無理。アンタの事、連れて行けない所だから」
「え?どうしてだよ!」
先程の事があるので声は小さいが、しかし、力の入った口調で知鎧が尋ねた。
「アタシ、昔からお世話になってる先生の所にお願いして、特別に研修させてもらうんだけど、
 そこ、普段は生徒を全然受け付けてないから」
「…ふ〜〜〜〜ん…」
「…何、その疑いの目」
裡菜の目が鋭くなったので、知鎧は慌てて手を振る。
「いや、疑いじゃなくて。それでも頼んでみる価値はあるかなって」
「…アンタねぇ…」
呆れかえる裡菜に、知鎧はニッと笑った。
「お前に迷惑は掛けねぇよ。それで駄目なら諦めるから、名前と電話番号だけ教えてくれよ」
初めて話しかけられた時から今までの事を考えれば、ここで知鎧が引き下がるわけがない。
裡菜はそれをよくわかっていた。
ワクワクと目を輝かせている知鎧に、再び溜め息をつきながらこう言う。
「多分、アンタが電話してもなかなか取り次いでもらえないだろうから、直接行くよ。…アタシも一緒に」
知鎧は一瞬ビックリしたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「大・感・謝」

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