しかし、生徒を全然受け付けていない上に、電話も取り次いでもらえないとは一体どんな所なのか。
生徒を受け付けていないと病院というのは大抵、とても小さな町医者などで、見習いの面倒を見てる余裕がないという所。
もしくは最先端の技術を誇る大病院などで、重要な研究をしており、外部の漏洩を防ぎたい、見習いは足手まといという所くらいだ。
取り次いでもらえないというくらいだから、おそらく後者、しかもそれなりに地位がある人物と知り合いという事になるが…。
――結構、無謀だったかな…。
今更ながらそんな事を思う知鎧であった。

さて、授業も終わり、二人はバスに乗っていた。
流れていく景色を見るともなく見ながら、知鎧はある事が気になっていた。
――コイツ、凄い普通だったよなぁ…。
先程、これから訪ねるという事で裡菜が連絡を入れてくれたのだが、実にあっさりと話が済んでいた。
知鎧には『取り次いでもらえないかも』とまで言っていたのにである。
――いくら昔から世話になってるって言ってもなぁ…。
何というかこう、もっと緊張してる感じとか、そういうのが会話に出るかと思っていたのだが。
そうこうしているうち、バスは目的地に着いた。
裡菜がさっさと降りた事に気付き、慌てて後を追う。
このバス停からすぐの所と言われていたはずである。
「アレ」
「へ?」
裡菜の指差す方を見て、知鎧は間抜けな声を出した。
…確かにすぐとは聞いていたが、まさかこんなにも目の前とは。
「…何?」
「あ、いや、あんまり近かったもんで」
「そりゃ『前』って停留所の名前なんだから、真ん前でもおかしくないでしょ」
「そうかそうか」
頭を掻きながら笑いつつ、初めて視界に入った停留所の名前を見て知鎧は絶句した。
「……かっ……!!」
『天岾医院前』
裡菜は行き先を教えてくれなかった。
車内のアナウンスは考え事で聞いてなかった。
ゆえに、今、知った。
「裡菜っ!!」
思わず裡菜を引き止める。
「お前!ココって!!」
医者の卵でその名を知らないなんて有り得ない。
世界的名医と呼ばれる天岾正が院長を務めている大病院。
それがココ、天岾医院である。
まさか、裡菜が言っていたのがこんな所だなんて、流石に考えもしなかった。
知鎧が怖気付いたのがわかったのか、少し意地悪そうな笑みを浮かべて裡菜が言った。
「帰る?」
すると知鎧は、勢いよく首を横に振って答える。
「いーや、帰らない!」
もしもココで研修できるのであれば本望である。
そしてココなら、裡菜が病院名を言わずに自分を連れてきたのも頷ける。
苑内で名前を出して、しかも研修に行くなどという事が周囲にバレたら騒ぎになるだろうからだ。
「…直接ココに連れて来たら諦めるかと思ったけど…結構頑張るじゃない」
「いや、流石に驚いたけどな。でもココまで来て、しかもお前についてきて貰ってて…もう帰れねぇだろ」
知鎧と出会ってから何度目かわからない『やれやれ』という顔を浮かべて裡菜が歩き出す。
周りをきょろきょろしながら知鎧はその後に続いた。

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