追うなというのは無理な事


彼はいつも突然そういう事を言い出すのだ。
「俺、今度できた戦闘団に行くから」
「…は?」
この時もそうだった。
思わず迢は、間抜けに訊き返してしまった。
「何だって?」
すると、鴇慈は笑って言う。
「だから、卒業したら街の向こうにできた戦闘団に行くから」
暫し間を空けて、迢は大声を出した。
「な…っ!何を言ってるんだお前!」
ココは学校の廊下。
一学年上の生徒が尋ねて来たという事だけでも珍しいので目立っているのに、突然の大声。
辺りを歩いていた他の生徒たちが驚いて振り返った。
それに気付き、少し声を小さくして尚、鴇慈に詰め寄る。
「戦闘団だって?本気で言っているのか?」
けれど、当の本人は軽く言った。
「ああ、本気。何で?一応お前にも言わないとなぁって思ったんだけど」
迢は頭を抱えた。
「何でって…。俺は当然お前は学館(※)へ行くものだと…。お前の成績なら何の問題も無いだろう?」
「あー……、担任とかにもそう言われたけど…」
むしろ、運動関係に至ってはたくさんのお誘いが来そうなくらいである。
「第一、そんな所へ行ったりして、鳶慈はどうするんだ。ああいう所は大抵住み込みじゃないのか?」
これには少し鴇慈も顔を曇らせたが、きっぱりと言った。
「悩んだのはそこなんだけど。琥香のオジさん達が良いって言ってくれたから」
迢は深い溜め息をついた。

「ええ、この前うちに来て、鳶慈の事を頼まれたわ」
こちらもさらりと言われ、迢はがっくりと肩を落とした。
誰も止める気は無いらしい。
まあ、あんなにはっきりと言い切った彼を止められる者がいるとは思えないが。
「…駄目なの?」
首を傾げる琥香に、迢は何を言えば良いのかわからなかった。
戦闘団などと言うからには、当然誰かと交戦するわけである。
つまり、いつ怪我をするか、下手をすれば命を落とすかもわからないわけで。
彼がいなくなってしまったら、――自分達も勿論悲しいだろうが――両親だけでなく兄まで失う事になる鳶慈があまりにも可哀想だ。
「大丈夫よ。鴇慈の事だもの」
こういう時、いつも焦っているのは自分だけだと迢は思う。
2人の互いの信頼が、たまに憎らしいとすら思える事がある。
自分のいなかった、あんなにも幼い日の5年がそこまで大きいものなのか、と。

※高校の事

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