止める事も出来ないまま日は流れ、卒業と同時に鴇慈は行ってしまった。
後で聞いて驚いたが、鳶慈には家を出るその瞬間まで何も伝えていなかったらしい。
「琥香さんは知ってたみたいですけど…迢さんも知ってたんですか?」
涙目でそう尋ねられて、少し返答に困った。
「一応…止めはしたんだが」
すると、思ってもみなかった事を鳶慈が言う。
「…迢さんが止めても駄目だったんじゃ、多分誰が止めても駄目だったんですね」
「……俺…が?」
「はい。お兄ちゃんは迢さんが言う事は結構守ってたんですよ」
これは意外だ、と迢は思った。
今までの様子を思い返しても、とてもそうは見えなかったのだが。
鳶慈がそういうのなら、そうなのかもしれない。
「…迢さん?何か嬉しそうな顔してますけど」
ハッと気付いて、思わず顔が赤くなる。
「い、いや、何でもない。そうか…俺が止めても駄目なら駄目、か」
鳶慈は苦笑した。
「基本的に琥香さんは、お兄ちゃんの言う事に反対しないからそういうのは止めないんですよ」
確かに、今まで琥香が鴇慈の意見に逆らっているのを見た事が無い。
それは別に無理矢理合わせているとか、我慢しているとかそういうのではなく、とても自然に賛成するのだ。
勿論本当に危険な事などであれば止めるのであろうが、鴇慈自らそれらに首を突っ込む事は殆ど無い。
だから反対する姿を見た事が無いのだろう。
ゆえに、彼に反論する事の多い自分は、3人の中で唯一分かり合えていない存在なのではないかと思う事もあったのだが…。
「迢さんが色々言ってくれたから、とても助かってたんですよ」
合わせる事だけが、理解ではないのだ。
まあ、琥香のように素直に納得できるというなら話はまた違うかもしれないが。
迢は、自嘲気味に笑った。
「どうしました?」
「ありがとう、鳶慈」
突然礼を言われ、鳶慈は首を捻る。
そんな彼の頭を撫でてやりたいような気分だったが、今この場に手袋も無いので、とりあえず迢は笑顔を見せておいた。

これからは、鴇慈のいない生活なのだ。

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