今まで必ずいた人間がいなくなるというのは、非常におかしな感覚だった。
学年が違っていたとはいえ、何かというと傍にいた鴇慈がいないのは、とても大きな空白。
元々迢は他人との交流が少なかったので、尚更だ。
けれど周囲は、そんな空白への思いに浸らせてはくれない。
「…というわけで、こういった誘いが来ているのだが」
「はあ…、そう言われましても、俺には何とも言えません」
新学年になって一ヶ月と経たない間に、何回こういった話をされただろうか。
これまでに例の無い好成績――常に全国一位――を取り続ける迢の事。
数多の学校から誘いが来たとしても疑問は無い。
校長は笑顔で言うのだ。
「君なら何処へ行ったとしても、勉強で困る事は無いと思うんだよ」
多分裏に隠された言葉はこうだ。
だから、なるべく有名な学校へ行ってくれ。
この世界はあまり進学にうるさい所ではない。
しかし、高学歴で困ると言う事は当然無く、もしも他の部分が全て同じであれば学歴も見られるだろう。
そして優秀な生徒を卒業させ、尚且つ有名な学校へ進学させる事が出来れば学校側としても有難い。
そんな感じで校長以下教師達は、何とか迢を良い学校へ進ませようと必死なのだ。
「無論、強制的に『ココへ行け』等という事はしないが、この学校などは地理的にもとても良い所で…」
思わず迢は深い溜め息をついた。

「お疲れ様」
校長室から出てきた迢に、琥香が声を掛けた。
「待っててくれたのか。悪いな」
「遅くなったのは、貴方のせいじゃないもの」
琥香がそう言うので、迢は苦笑する。
並んで歩き出してからも、自然にその話は続いた。
「どうせまた、学館の話でしょ?」
「ああ。どうやら最近、お勧めが三校くらいに絞られてきたみたいだが」
すると琥香は迢の顔を覗き込んで尋ねる。
「行くの?」
「…え?」
迢の足が止まった。
彼の前に立って、琥香が続ける。
「やっぱり迢は、学館…行くの?」
失敗したとはいえ、鴇慈を止めようとしたくらいだから。
琥香の目がそう言っていた。
「…………ああ」
そう答えたものの、何となく自分の中に引っ掛かるものがある。
――学館…か。
勉強は、嫌いではないし苦手なわけでもない。
けれど…。

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