「久し振り。合格おめでとう」
3月、卒業式直前に肩を叩かれて振り返れば、受験で二ヶ月近く顔を合わせる事が無かった幼馴染みの顔。
「ありがとう」
そうは言ったものの、特に嬉しさは無かった。
「迢には、試験なんて簡単だったでしょ」
「いや、よく覚えてない」
「またそういう事言って…」
実際、ざっと目を通して適当に答えを書いてきた感じだった。
どんな問題が出ていたのか、本当に覚えていない。
考えようという気も起こらなかった気がする。
「ようやく卒業ね」
嬉しそうな顔をする琥香を見て、迢は目を伏せた。
「…どうしたの?」
「……この後、すぐ行くんだろう?」
鴇慈と同じように。
琥香はロッカーの方を指差して言う。
「ええ。もう準備は出来てるもの。すぐ行くわ。着いたら手紙書くわね」
そしてくすくすと笑った。
「鴇慈ったら結局一回も連絡してこなかったでしょ。ホントに不精者なんだから」
まあ、彼がこまめに手紙やら電話をする様は想像できないが。
「さ、もうすぐ式が始まるから席に座らないと」
手を引かれ、迢はのろのろと歩き出す。
――この式が、終わったら。
彼女も、遠くへ行ってしまい、3人の中で自分だけが離れる事になる。
講堂へ着いた直後、突然そんな思いに駆られて頭が痛くなった。
式を見に来ていた琥香の両親と迢の両親、そして鳶慈と迢に見送られ、琥香はバスに乗り込んだ。
「それじゃ、皆元気でね」
一番後ろに座って、バスが走り出した後もしばらく窓から手を振っていた。
鳶慈が呟く。
「良いなぁ、琥香さん。お兄ちゃんに会えるんですね」
「――ああ」
ずっとバスが行ってしまった方を見ていた2人に、琥香の母親が声を掛けた。
「さあ、今度は迢君の合格祝いパーティーよ!うちの娘が行った後になっちゃったけど…盛り上げましょう!」
彼女は、そういう事が大好きなのだ。
そして父親も言う。
「実はもううちの中は激しく飾られているからね!さあおいで迢君!」
似たもの夫婦なんである。
「ラリー、せっかくああ言って下さっている事だし、是非お祝いして頂きなさい」
迢の父親はそう言って、琥香の家の車に乗り込んだ。
母親も既に乗り込んでいる辺り、こちらもかなりやる気らしい。
因みにエルフ族内ではミドルネームで呼び合い、つまり迢はローレンス、愛称でラリーと呼ばれている。
「勿論卒業祝いもやるぞー!」
最後に迢が乗り込んだ時には、既に大人4人が妙な盛り上がりを見せていた。