「トキ、コレは何の冗談なんだ。夜栄、お前はいつからこんな悪戯をするような奴になった?」
ベッドに座り、冷たくなっていく夜栄の手を握りながら、旨篤がポツリと言った。
窓の外は、夕焼け。
赤い光が、医務室の中に差し込んでくる。
「俺様はこんな悪戯、笑えないぞ?お前はいつも通りにしている方が面白い」
旨篤の肩が震えている。
鴇慈は旨篤の隣に立って肩に手を置いて小さく言った。
「――何で、こんなに綺麗なんだろうな」
それが引き金となったのか、旨篤の目から涙が落ちた。
握っていた夜栄の手に、その涙がかかる。
「………何故泣いている?」
「それはお前が死んだから……!!って、え?」
「…夜栄……!?」
旨篤も、鴇慈も目を見開いた。
音も立てずに、夜栄が起き上がる。
手は氷のように冷たいままだ。
機械も、彼の心臓の鼓動を読み取っていない。
つまり彼は…『死んでいる』はずなのだが。
「夜栄、お前一体…!機械が壊れているのか?」
旨篤が夜栄に詰め寄る。
夜栄は小さく首を横に振って答えた。
「……壊れていない」
「じゃあ、どうして…」
確認するように、旨篤は何度も夜栄の手を、腕を握り締める。
血が流れている様子は無いが、しかし、確実に動いている。
そんな旨篤に、夜栄は申し訳無さそうな瞳を向けた。
「…すまない。ずっと黙っていた…。俺は…アンデッドソート。殺されても死なない体……」
「殺されても死なない…?」
鴇慈が首を傾げる。
「アンデッドソート…?聞いたことがあるな」
旨篤が言う。
「見た目は普通の人間のようだが実際は全く違い、死ぬ度に蘇り、しかも特殊な能力がついていくとか…」
それに対して、夜栄が頷いた。
「…そうだ…。しかも一度死んだら、もうそこから肉体的に歳を重ねる事は無い。俺は…」
夜栄は俯く。
「俺は……呪われた種族なんだ……」
殺しても殺しても死なず、心臓は動かないまま蘇り、その上人外な能力を身に付ける。
この世界にはたくさんの種族がいるが、その中でもあまりに特異な。
人々は、そんな彼らを忌避すらした。
ゆえに彼らは、自らの体の秘密を執拗に隠し、己が種族のみの小さな村に住む。
「……俺は…」
「種族なんて、どうでも良いさ」
鴇慈の言葉に、夜栄は驚いて顔を上げる。
「お前があのまま目覚めなかったら俺は……」
その後聞こえるか聞こえないかの声で、無茶しやがって、と鴇慈が言った。
旨篤も、鴇慈に続く。
「そうだぞ、この馬鹿モノが!!俺様より先に命を落とすなどと、そんなことは認めないからな!!」
驚きで一回止まっていた涙が、また溢れてきていた。
「お前とトキは、俺様が死んでからじゃないと、死ぬことは許されない!もう、こんな思いはさせるな!!」
ボロボロと涙を流して大声を出す旨篤に、どうしたら良いのかわからず夜栄はそっと頭を撫でてみた。
すると旨篤が、嬉しそうに笑う。
「そうだ、お前はそれで良い。わけのわからない、そんなお前の行動が俺様を安心させるんだ」
立ち上がって、旨篤は涙を拭いた。
「夜栄、もう俺様に隠し事はないのか?トキにも、ないのか?」
夜栄は、鴇慈の顔を見て、旨篤の顔を見て、コクリと頷いた。
「…俺は、お前たちの事を信じている。けれど……怖かったんだ、きっと」
この体の事を言えば、離れていってしまいそうで。
「……本当に……すまない……。心配させてしまった………」
「もう良いんだ。お前が無事だったんだから」
鴇慈が優しく言うので、夜栄は微笑んだ。