プリンを食べ終え、元の服への着替えも終わり、宙爲はもう一度鴇慈の自転車の後ろに乗っていた。
相変わらず速かったが、道がハッキリわかっていないせいか、来た時より多少緩いペースである。
「次の次の角を右へ頼む」
「了解」
「ところで、こっちの方初めてなんだろ?帰れるのか?」
「俺、方向音痴じゃないから平気。いざとなったら誰かに訊くさ」
知ってる道に出られれば後は大丈夫なんだし、と言いながらグンと右へ曲がっていく。
長い距離を二人乗りで走っているのに、全く息が切れていない。
――まず基礎体力が半端じゃないのかもな。
そう思いながらボーっと流れていく景色を見ていると、鴇慈が話し掛けてきた。
「そういえば、言うにしても、上手く言えよ」
「何を?」
「隠すのも良くないとは思うけど、きっとありのまま話したら、ビックリするぜ、家族」
恐らく、今日上級生に絡まれた事を言っているんだろう。
宙爲は思わず苦笑する。
「平気。初めてじゃないし」
キキーッ
そう言った途端、突然自転車が止まった。
鴇慈の背中に頭をぶつけて、宙爲は目をパチパチする。
「ど、どうしたんだよ、いきなり」
こちらを向かないまま、鴇慈は言った。
「…………どうしても我慢できない時は、俺の所に来いよ。手伝うから」
「……」
「やり返してたらきりが無いかもしれないけど、でも、やっぱり必要な時もあると思う」
「………うん」
顔は見えなかったけれど、真剣に、本気で言ってくれているのがわかる。
――どうして…。
「なぁ」
「何だ?」
「どうして、そんなに親身になってくれるんだ?」
宙爲がそう訊くと、鴇慈はすぐに振り返った。
「すぐわかったから」
「何が?」
「お前、良い奴だから」
唖然。
「な……何だそりゃ!!」
「ホントにそう思ったんだから、仕方ないだろ」
そして自転車は、次の次の角に向けて再び走り出す。
宙爲には見慣れた景色だったが、鴇慈は帰り道の確認をしているのか、スピードを出しつつも周りをよく見ていた。
「まだ暫く先?」
「いや、もうすぐそこの……」
「もしかして、あの赤い屋根の?」
「ああ」
――そうだ、赤い屋根の家。
気にした事はなかったれど、鴇慈の家と同じような色の屋根だった。
ゆっくりとスピードが落ちて、ちょうど宙爲の家の前で止まる。
「それじゃ、俺はこれで」
宙爲が下りると、鴇慈はすぐに向きを変えた。
「あ、もし時間があるなら何か飲んでいけよ」
宙爲はそう言ったが、鴇慈は首を横に振る。
「悪いな。あんまり鳶慈を一人にしておけないから」
「親、帰るの遅いのか?」
「いや、俺達しかいないんだ」
宙爲の頭の中に、サッと先程鴇慈の家で見た光景が浮かぶ。
部屋ごとに必ず置かれていた両親と思われる二人の写真。
そしてそれが示す理由。
「……それならさ」
「ん?」
「今度、二人でうちに遊びに来てくれよ。たくさんお礼をしたいし」
「気にするなよ。でも、きっとお邪魔するからよろしく」
ニッと笑いながらそう言って、それじゃ、と走り去る鴇慈に手を振りながら、宙爲は大きな声で言う。
「ありがとう、鴇慈!」
タイミングが見つからなくて言えなかった感謝の言葉と、初めて呼んだ名前。
今日あった出来事が一気に溢れ出して来たようで、玄関の扉を開けながら宙爲は少し泣いてしまった。


その後も二人は何度か遊んだりしたのだが、宙爲が親の仕事の都合で引っ越す事になった。
「だいぶ距離があるから、こんな風に気軽に遊んだりは出来ないな」
ちょっと落ち込む宙爲に、鴇慈は笑顔で言う。
「またいつか会えるさ」
「…そうだよな。きっと会えるよな」
握手を交わして、車に乗り込む。
「きっとまた会おうな!」
頷きながら手をヒラヒラさせる鴇慈が遠くなる。
今までも何度か引越しをしてきた。
恐らく、これから後も何度か引っ越す事になるだろう。
いつか連絡がつかなくなってしまうかもしれない。
それでも、また会える。
そんな気がする。




次に赤い屋根の家に引っ越して来た後、ようやく落ち着ける事になり。
それからまた暫く経った頃、二人は再会するのだけれど、それはまた別のお話。




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