聞き耳、立ててる?


朝会が終わると間もなく朝食なので、皆わらわらと食堂へ向かう。
特に砂と翌は、先に殆ど準備を終わらせているとはいえ、仕上げがあるから早々に会議室を出て行く。
それとは逆に迢は、会議室での後片付けに追われる事になる。
大した内容では無いとはいえ、一応資料もそれなり。
彼がガサガサと紙をまとめているのを見て、慧史が手伝いをかって出た。
「あの、何だか今日はちょっと資料が多目だったみたいデスし、俺も手伝いマス」
「気を遣わせてしまったか。だが、大丈夫だ。もう終わる」
そう言って、迢がトントンと紙の束の端を揃えた時、机の上に残っていた紙が一枚ヒラリと床に落ちた。
それは、皆が座る方の長い机の下に入り込んでしまう。
「あ、俺拾ってきマスね」
「すまないな」
慧史は机の下に潜り込んで紙を取ったが、立ち上がろうとした時にゴンと盛大に音を立てて頭をぶつけた。
「痛ー!!」
カチャ
慧史の叫びと同時に、何か小さなモノが落ちる音がした。
「大丈夫か、慧史。凄い音がしたが」
「イタタ……。だいぶ強くぶつけましたけど、何とか平気デス」
涙目になってぶつけた所をさする慧史と、それを心配する迢。
その後ろでちゃっかり禾が、今落ちた謎の小さなモノを拾い上げ、何事も無かったかのように天井裏に帰った。
一人、拾い上げたモノをまじまじと観察する。
「これは……」
しっかりと禾の動向を視界の端に捉えていた迢は、禾がそれが何であるかがわかったであろう頃に質問した。
「禾、今のは何だった?」
「俺が思っている通りのモノなら、ちょっと問題だぞ」
「何?」
カタンと天井の一部が外れ、禾の腕が伸びてくる。
迢が手を出すと、そこに先ほどの小さな謎のモノを落とした。
まるで虫のようにも見えるその機械は…。
「………盗聴器、か?」
「恐らくな」
「と、盗聴器デスって!?一体誰が!」
慧史があわあわと、一人右往左往する。
「考えられるとすれば…いつかの四方会の襲撃か、先日の綺誰の来訪か…」
「何れにせよ、四方会ということか」
「ココに盗聴器を仕掛けるような奴といえば、そうしか考えられまい」
「しかし、少なくとも綺誰はココに近付いた気配は無いし、五人が来た時だって……」
禾がそう言い掛けた時、盗聴器と思われる小さな機械の一部が、ピッという音と共に光り出した。
「迢、離せ!」
爆発する危険もあるという事で禾が言ったが、それよりも前に誰かの声が聞こえて来た。
『おい、まずいぞ!見つかった上に四方会の事疑っちゃってるし!』
『元々仲良くなかった所みたいだしね〜』
『これで関係悪化とかになったら大変だぞ』
『でもさー、言っちゃうわけにはいかないじゃん……って、あー!通信モードにスイッチ入ってるー!!』
『何ー!?何で盗聴器にそんな機能つけてるんだアイツは!!』
『早く!早くスイッチ切らなきゃ!』
『そ、そうかそうか!お騒がせしたな!何でもないから気にするな!怪しくない!』
『馬鹿!そんなの良いから!』
ブチッ
……シーン……。
「………」
「………」
「………」
暫くの間顔を見合わせていた三人だったが、溜め息の後に迢が怒りを抑え切れていない低い声で言った。
「そっちのスイッチを切ってもこちらの声は聞こえているな」
……シーン……。
「後で二人揃って俺の所に顔を出せ。必ずだ。良いな、大友(おおとも)。それから佑拓(ゆうたく)
有無を言わさぬ口調に、横で聞いていた慧史が既にブルブルしている。
さて、機械の向こうの彼等がどうしたかというと。
…ピッ…
『……は〜い……』
再び通信が繋がり、揃った声が聞こえてくるのだった。


「一体どういう事なのか教えてもらおうか」
鴇慈も仕事を始めたような頃合に、迢の前に並んで正座をしている二人組。
勿論、先ほど呼び出された、盗聴器の向こうの彼等である。
口元に八重歯が輝いている、体ががっちりした大柄な男が大友。
そして、小柄で華奢な体に、メッシュ入りの柔らかい髪が揺れている男が佑拓だ。
尚、『佑拓』は本来『ともひろ』と読むのだが、大抵は『ゆうたく』と呼ばれている。
二人はチラチラと目を合わせながら、ボソリと小さな声で話し合う。
「…どうするか、佑拓」
「どうするって言ってもさー…」
佑拓がそう言いながらチラリと迢を見ると、今にも怒りを爆発させそうな顔をしていた。
「その顔怖ーい!ごめんってばー!でも、お仕事だったんだから仕方ないんだよ〜」
やーん!という擬音が聞こえてきそうな顔をして、佑拓が迢にすがりつく。
「仕事だって?」
それをサラリとかわしながら、迢は怪訝そうな顔をした。
「そー。佑拓(ゆーたく)達だってホントは嫌だったんだけど、うちは上から言われちゃったら逆らえないし」
「悪趣味だもんな、盗聴なんてさ」
大友もうんうんと頷く。
彼等は、萬街道警備隊の隊員だ。
警備隊というのは一応、この世界での公的な………何だろう。
まあ、平たく言えば警察みたいなものである。
戦闘団のように、それぞれの決まりというのではなく、何処の地域でも皆同じ決まりで動いている。
上からの命令は絶対だし、守秘義務も私設団体に比べて大変厳しい所。
「警備隊が盗聴を?一体何故」
当然、迢からのそんな質問には答えられるはずが無いのだが。
「ぜぇ〜ったい、たいちょーに佑拓達が言ったって言わないでくれる?」
あれれ?
言う気満々だ!
コレには迢も少々驚いたようで、ホントに訊いて良いのか?と返してしまう。
すると、うんうんと頷く二人組。
「正直ねぇ、今回の任務は佑拓達、凄く不満なわけ」
「そうそう。いきなり『各ブロック担当戦闘集団の作戦会議を盗聴せよ』とか言われてさ」
「因みに、ホントはきりゅー君達がココ担当なんだけど、あそこはまてっちゃんがいるから」
盗聴器を壊してしまうので、ついでに彼らがココのブロックも担当したという事らしい。
「なるほど。では、聞かせてもらおうか」
「うん。実はね、まだ完全に確定してないんだけど、警備隊にある情報が入ってきたんだ」
「ある情報?」
「近々、何処かの戦闘集団がとんでもない事をやらかすってな」
「何をするかとか、具体的な事は佑拓達は聞かされてないの。でも、とにかくそれを事前に防げって」
「恐らく、それについての詳しい話し合いがあるはずだから、一体何処の戦闘集団なのかを調べる為に」
「それぞれの戦闘集団の会議室へ盗聴器を仕掛けた…というわけか」
ふむ、と納得したように頷く迢。
「一体何の事だかわからないが、随分とんでもない計画を立てたものだな」
「ねー」
「まさか、『登録されてる戦闘集団全部に盗聴器』なんて来るとは思わなかったぜ」
「でも、これだけは信じて欲しいんだけど」
正座したまま、上目遣いで佑拓が言う。
「佑拓、絶対ココじゃないって思ってるよ」
「俺も俺も」
「………」
迢は、しばらく佑拓と大友を交互に見た後、ふう…と大きく溜め息をついた。
「まあ、ココかもしれないなんて思ってたら、あんな迂闊な事はしないだろうな」
あんな迂闊な事=通信モードにスイッチが入ってる。
「それは言わない約束でー!」
「何で機械班は、盗聴器にあんな機能をつけたんだー!!しかもスイッチ入れた記憶も無いのにー!!」
うわーんと一気に騒がしくなる二人に再び溜め息をつきながら、迢はもう一つ質問をした。
「ところで、一体どうやって様々な戦闘集団の会議室に盗聴器を仕掛けたんだ?」
誰にも気付かれず、こんな所に盗聴器を仕掛けるなんて容易な技では無いはずである。
「あ、流石にそれは秘密かも〜」
「まあ、俺らのトコにも色んな能力持ちがいるって事だ」
「潮巳(しおみ)さんか」
すかさず入るツッコミ。
「うっそ!こーた先輩の事知ってるの!?」
「やっぱりあの人、有名なんだなぁ」
ニヤニヤしながら秘密にしようと思ったのに、天井裏から突然正解を言われて驚きの二人である。
「禾、知り合いか」
「知り合いでは無いが、情報としては知っている。確か、遠隔操作の特殊能力を持っているはずだ」
「ふむ…。建物内情報はある程度警備隊に提出してあるはずだからな。それで会議室まっしぐらというわけか」
しかし、場所が分かっていたとしてもなかなかできる事ではない。
距離や数を考えても、とんでもない人物のようである。
「まあともかく、大体の事情はわかった。もう良いぞ」
迢がそう言った途端、佑拓がピョンと立ち上がって大あくびをする。
「ふわぁ〜あ。正座嫌ーい」
「好きな奴なんていないんじゃないのか」
言いながら大友も立ち上がり、身長差の都合で迢を見下ろす。
「まあその…、仕事とはいえ悪かったな」
こちらも身長差の都合で大友を見上げながら迢は言う。
「もう気にするな。恐らく克嗣も納得はしていないだろう」
「ここの所機嫌が悪くて大変だよ」
「元々怒りっぽいのに、ずっと怒りっぱなしだもんねぇ〜」
大友と佑拓は苦笑いを浮かべた。
「そーだ。こんな事を許してくれたお礼に、もう一個秘密の情報あげる〜」
「秘密の情報?」
「数ある戦闘集団の中で、たった一つだけ盗聴器が潜り込めなかった所がある」
「こーた先輩が何度盗聴器を送り込んでも弾き返されちゃったんだ」
誇らしげに人差し指を立てて大友が言い、佑拓もちょっと楽しそうに言う。
「お前たちがよく知ってる、アイツらの所さ」
「――まさか…」
「そ、冠座四方会」
「そして今現在、盗聴器を仕掛けた所では、その『とんでもない事』に関して話している所は無い」
「………」
迢は黙って話の続きを聞く。
「あそこは、きりゅー君達が見回りに行っても色んな意味でホントーの表面しか見せないし、怪しい事この上ないんだよね」
「あんな小さな機械すら完璧に見逃さないほどの厳重な警備。その上他の所では出ない話。……疑うよなぁ、どうしても」
「…本当にそんな所まで言ってしまって良いのか」
驚くほど詳しく話してくれるので、迢は逆に心配になる。
しかし、二人はニッコリ笑って答えた。
「へーき。迢るん達は絶対に他の人に言わないもん」
「それからな、これでも心配してるんだよ。あそこから何かあるとすればまずお前等だろうからな」
「佑拓達は公平な立場じゃないといけないけど、だからこそ理不尽な事はされた側に付くよ」
「ヤバそうならすぐに桐生達なり、俺達なりに連絡しろよ」
管轄外でも飛んできてやるという心強い言葉に、迢は素直にお礼を言った。
「…貴重な情報、感謝する」
「んん〜?迢るんもしかして照れてる?」
「照れてなどいない!それからいい加減その呼び方をやめろ」
「年上のお兄さん達を呼び捨てにして、命令までしちゃってる悪い子の言う事は聞きませ〜ん」
「…お前が年上なんてすっかり忘れていた」
「酷!だいゆー、怒って!怒って!」
「俺もお前の方が迢より年下に見えるから怒れない」
「何それー!」
大変真面目な話をしていたはずなのに、何やら一気に和やかな雰囲気である。
「まあともあれ、話せてスッキリしたな」
大友が伸びをしながらそう言うので、佑拓もムッとした顔ながら頷いた。
「やっぱり、ホントに皆に秘密でこんな事するの嫌だもんねー」
その時、ピーピーと大友のポケットの中から音が聞こえた。
通信機に何か連絡が入ったらしい。
「はい、こちら淀川」
明るい声で答えた大友だったが、次の瞬間その場にいた全員の顔が青ざめる事になる。
『話は終わったな。これから俺が行くから、全員そこを動くな』
そう言っただけで、ブツリと通信が切れた。
名乗らなかったが、その威圧感で誰だかすぐにわかる。
大友達を呼びつけた時の迢よりも遥かに重い、それこそ周囲が凍りつくようなその低い声の主は。
「た……隊長……?」


キィィ……バタン。
カツカツカツカツ……。
扉が開いて閉まる音。
そして、こちらに近付いてくる足音だけが響いた。
迢達の前で足を止める。
「…四人揃ってるな」
通信機の中から聞こえたのよりもさらに重い声で足音の主の男が言う。
天井裏の存在にもしっかりと気付いたらしい。
禾が下りてこようとしたが、すかさず止められる。
「てめぇの事は知ってる。出てくる必要はねぇからそこで話を聞いてろ」
そう言ってサングラスを取ると、金色の鋭い瞳がそこにいる全員を捉えた。
隊長こと姫垣克嗣。
萬街道警備隊の隊員全てをまとめている、いわば総元締め。
時にいき過ぎとも思えるような厳しい態度で部下に接するが、その実力は確か。
鬼と呼びつつも彼に心酔している隊員も少なくない。
そこにいるだけで周囲を緊迫させるオーラは見事ですらある。
「さっきの話を聞いてたのは、これで全員だな」
「…ああ」
迢が答えると、克嗣はまったく…と眉をひそめ、
「見事にベラベラと喋りやがって、余計な仕事増やしてんじゃねぇよ」
と言ってバシッバシッと大友と佑拓の頭を引っ叩いた。
「…申し訳ありません。しかし隊長、どうしてわかったんですか?」
おずおずと尋ねる大友に、克嗣は面倒臭そうに答える。
「それぞれの盗聴器から入る情報は、全部俺の所に流れて来るんだよ」
「ああ、そっかー!」
「大失態だぜ!」
「馬鹿野郎!!」
スパーンッ!と、今度は良い音で叩かれシュンとなる二人。
それにチラリと一瞥くれて、克嗣は迢の方へ手を出す。
その意味を瞬時にくみ取った迢が盗聴器を渡すと、床に投げて踏みつけた。
パシッと小さな音を立ててあっさりと壊れる。
「隊長!?」
「壊す以外に盗聴機能を消せないのが運のつきだったな。メイサークラウン、澄屋、てめぇらも不注意過ぎる」
確かに、盗聴していた主達がわかっていたとはいえ、盗聴器をそのままにしていたのは失態である。
「しかし良いのか?お前自ら盗聴器を壊してしまうなど」
破片を見つめながら迢が尋ねると、克嗣はそれらを蹴飛ばして言った。
「俺は壊しに来たんだ。それに、策は講じてあるが、万が一まずい話が流れたりしたら面倒臭ぇから念の為な」
「まずい話?」
「やっぱり、佑拓達殺されちゃうんですかー…?」
プルプル震えながら、大友の後ろで佑拓が半泣きだった。
「そんな煩わしい事するか、阿呆。計画について俺が直接色々言ってるのが上に聞かれると鬱陶しいんだよ」
やはり先ほど迢が言っていた通り、克嗣もこの計画には納得していなかったらしい。
「未確定情報に対してこの規模の計画はおかし過ぎる。裏があるとしか思えねぇ」
「克嗣…」
「油断するなよ。きっと面倒な事が起こる」
「わかった」
「それから、これを」
そう言って克嗣が取り出したのは、先ほど壊したものとほぼ同じ形の小さな機械。
「何だ?これも盗聴器じゃないのか?」
「その通りだ。今まで受信できていた所からの電波が完全に切れると上が怪しむ」
親指で大友達の事を指しながら、克嗣は続ける。
どうやら、これが『まずい話』の最重要部分なようである。
「今回の事がバレると、俺は勿論コイツらの首が飛ぶからな。納得いかねぇのはわかるが、また付けてやってくれ」
「うちは大した話をしていないし、構わないといえば構わないのだが…」
「前のと違って聞かれたくない話をする時には、そこのボタンを押せば一時的に通信が切れるタイプだ」
「…オンオフ自由とは…、本当にうちは信頼されているんだな。わかった。出来る限りオンにしておこう」
迢は半分呆れた声で言った。
聞かれたくない話が、警備隊上層部が求めている話では無いと言い切ってしまっているわけだから。
「良い方向に取ってくれてありがとうよ」
ふん…とやや自嘲気味に口元を歪め、克嗣はくるりと背を向ける。
「邪魔したな。オラ、てめぇらも帰るぞ!」
ピュッと大慌てで続く大友と佑拓。
「じゃあまた今度ね〜」
佑拓のそんな声と共に、パタンと扉が閉まった。
「流石克嗣さん。一発で俺に気付くとは、何もかもお見通しという事か」
新しく渡された盗聴器を確認する為に、禾が天井裏から下りて来る。
「まあ、お前はある意味有名だから、ある程度気配があったらわかるんじゃないか」
禾に盗聴器を渡しながら、迢が疲れた声を出した。
「嫌な事に巻き込まれているな」
「そう言うな。せっかくの信頼を頂いたのだから」
クスクスと楽しそうに言う禾だったが、迢は憮然とした顔である。
「盗聴器の件についてはまだしも、その後の事だよ」
「しかしまだ、四方会であると決まったわけでもないのだろう?」
「それはそうなのだが。…ともあれ、この話を聞かせる団員は選んだ方が良いな」
「慧史には何か上手く伝えるとして、鴇慈さんと琥香と……さて、後は一体誰だ?」
言いながらニッコリと微笑む禾に、迢は何かを見抜かれたようで軽い腹立ちを覚えたが気付かなかった事にした。
「まずその二人だけで良いんじゃないのか。盗聴器の扱いに関しては、お前に任せる」


「隊長、申し訳ありませんでした。それからありがとうございます」
克嗣の車に乗り込んだ後、大友が深々と頭を下げた。
「ありがとうございますー」
佑拓もそれに習うように頭を下げる。
「手間掛かる仕事増やしてんじゃねぇよ、馬鹿が」
アクセルを踏みながら、煙草に火をつける克嗣。
サングラスを掛け直したので、その表情は読み取り難い。
「どんな処分も覚悟しています」
大友が俯いて、グッと決心した声を出す。
克嗣の元に情報が届いたという事は、そのまま上層部にも流れているという事だ。
少なくとも、大友達が迢に計画を話してしまったのはバレているはず。
ただで済まないのは当然である。
ところが。
「てめぇはさっきの俺の話を聞いてなかったのか。『今回の事がバレると』って言っただろうが」
「え?」
「上に送る前に、俺が全て確認している。盗聴器発見以降のデータの送信は停止中だ」
「発見以降っていうと…」
「上では、冬賀が頭をぶつけた所で、団の会議室の使用が終わった事になってんだよ」
意外な言葉に、大友と佑拓は顔を見合わせる。
「新しいのを渡す為に前のを壊した。この一件について、他に知ってるのは潮巳だけだ。…この意味がわかるな?」
「たいちょー、大好き!!」
ポンポーンッと猫耳と尻尾を出しながら、佑拓が克嗣にカーシートの後ろから飛びついた。
が、運転中なので当然の如く殴られる。
「危ねぇだろうが!!」
「痛〜…!」
佑拓は、尻尾をユラユラしながら殴られた所を自分で撫でて猫耳を伏せた。
「勝手に耳と尻尾が出ちゃうくらいに感激したのに〜…」
猫が元の獣人と人間のハーフである彼は、感情が昂ぶると耳と尻尾が飛び出してしまうらしい。
そんな佑拓の横で笑いながら、大友がうんうんと頷く。
「いや、でも本当に嬉しかったです。もう一度盗聴器を付ける事を頼んだ時も、俺達の事心配してくれてましたし」
しかし、そういう話が苦手なのか、それについては何も言わずに克嗣は別の話題を切り出した。
「ところで淀川、武乃原」
「はい」
「…何ですかー?」
「この盗聴器に通信機能はねぇ。機械班にも潮巳にも確認を取った」
「え?」
ピン、と佑拓の猫耳が立つ。
「そもそもこんな目的の盗聴器に、そんな機能を付けるわけはねぇな」
「でも、俺たちは…!」
大友が弁明しようとしたが、克嗣はすぐに言った。
「疑っちゃいねぇよ。てめぇらが使ってた集信機とあの盗聴器にだけ、何故かそんな機能が加わってたんだ」
「どうしてそんな…」
納得できないのは当然である。
だがしかし、それが事実だった。
「てめぇらがそんな事出来るとは思えねぇからな。…誰かがこの計画をあの団にだけ教えたかったのかもな」
「まさか、隊長が?」
「そんな事するか、馬鹿野郎」
克嗣は吸い終わった煙草の火を消しながら、さらにアクセルを強く踏んだ。
「さっさと帰るぞ。…まったく、何処も彼処も厄介事だらけだ」
その克嗣の声は、スピードを上げた車の風を切る音にかき消されて誰の耳にも届かなかった。



-了-




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