ねぇ、空と海のどちらが好き?
尋ねる僕に、君は笑い掛けてくるんだ。
『空』
どうして?
青くて広いこのどちらを好きか、どうして簡単に答えられるの?
『海は自分の力だけで行けるけど、空は自分の力だけでは行けないもの』
そう言いながら踊るように僕から離れていくんだ。
『自分だけじゃ手の届かないモノが好き。届かないからこそ、求める意味がある』
ああ、そうか。
君はそういう人だった。
それなら、と僕は港を指差した。
自分の力では無いけれど、今度完成するあの飛船に、一緒に乗って空へ行こう。
君が好きだというあの空へ。
返事をせずにくすくす くすくす笑ってた。
それを了解と取っていたのに。
君は飛船の完成を待たないまま一人、空へ旅立った。
君が好きだと言った空に、今来ているよ。
飛船の甲板から眺める空は、海よりも広く、遠く。
君の求めていた世界とは、少し違うかもしれないけれど。
それでも、顔の横を過ぎる風は冷たく心地良く。
この青は永遠に続くとすら思えるような。
たまに飛び込む雲の中、君を見つけた。
最後に会った時よりも、ちょっと淋しい顔をしていたね。
『自分の力だけで、もう、空も自由自在だよ』
そしてふわりと飛び立つんだ。
帰っておいでよ。
そう言ったら、君が手を伸ばすから、懸命にその手を掴もうとした。
でも、無理だった。
すっと離れた手と手。
そうしたら、また君はくすくす くすくす笑ったね。
『駄目だよ。届かない』
飛んでおいでよ。
でも君は、首を横に振ったんだ。
『届かないから、君が好きだよ』
どうして僕を、そこへ呼んでくれない?
進む飛船。
消えていく君。
心だけ空に置いて、地上に帰る僕。