中心に大きな時計が浮いている(!)
それがこの街の特徴。
ココが僕の生まれ育った所。

僕の名前はフォーラス・ハインダム。
まだ12歳だけど、この街ではちょっと名の知れた探偵なんだ。
まあ、とても平和な街だから、殺人事件とかを解決するわけじゃなくて、
主に泥棒なんかの逃走経路を割り出したりするんだけど。
結構面白いんだよ。
何より、犯人を追い詰めた時の爽快感は格別だね。

 

今日は、知り合いの刑事さん(病気で死んじゃった僕の父さんの友達)に呼ばれて、学校の帰りに警察に来たんだ。
このおじさんは何か事件があると僕を呼んでくれるんだ。
子供だからって馬鹿にしたりしない、とっても良い人だよ。
「こんにちは、ランカードおじさん」
「ああ、フォー。良いところに来てくれた」
耳と尻尾をぴくぴくさせながら、おじさんは僕にカードを渡してきた。

あ、言い忘れたけど、この街の住民は皆、動物の耳と尻尾が生えてるんだ。
僕は(よく犬って言われるけど)狼。
おじさんはライオン。
別にその耳や尻尾があるからって、その動物の特徴を持ってるわけじゃないんだけどね。

渡されたカードを覗き込んで、僕は首を傾げた。
「何コレ?」
僕がそう言うと、おじさんは頭を掻き毟った。
「よくわからないんだ」
僕は、もう一度カードを見た。

僕は白い猫。
欲しい物は何でも手に入れるんだ。
今日は何処へ行こうかな。
そうだ、ココにしよう。
『今は無き館。
 夜に聞こえる泣き声。
 「助けて」
 十を数えてぽたりと垂れる。
 それは時を越えた思い。
 それは大いなる叫び。
 もう時間が無い。
 計器が狂い、壊れた日。
 暁にはもう消えた。
 てが届きそうな宝。』 何を盗るかはお楽しみ。
ヒントは…『1101443121』かな。

…一体何なんだろう?
「悪戯じゃないの?」
「やっぱりそう思うか?」
おじさんは、僕の手からカードを取って、裏にしたり表にしたり。
何の仕掛けがあるわけでもない。
「それ、一体どうしたの?」
僕が尋ねると、おじさんは頷いて言った。
「今日突然、警察のポストに入ってたんだよ」

この街の警察のポストといえば大抵、隣の家がうるさいとか、道路が汚いとか。
まあいいとこ泥棒に入られました、といった苦情みたいなモノばかり届くのだけれど。
(↑…いいとこ?)

「悪戯かとも思うんだけど、『何を盗るかはお楽しみ』っていうところがなぁ…』
「…予告状かもしれないってこと?」
僕は、ちょっとわくわくしながら言った。
それが伝わったのか、おじさんは苦笑する。
「まあ、そんなところだ。犯罪がおこったら困るだろう?」」

ただの泥棒ならそこまで珍しくないけど、予告状を出すなんて珍しいなぁ。
「おじさん、もう一度カードを見せて」
えーと何々?
『今は無き館』…ってことは、街外れの廃館のことかなぁ。
あそこ、夜になると何かいそうだし。
でも、一体何が垂れるんだろう?
計器って…秤とか定規とかそういうものでしょ?
それが狂って壊れる日…?

「うーん…」
そこまで単純に考えるのも変だよなぁ…。
わざわざ隠して伝えてるんだし。
第一このヒントは何だ?
「いち、じゅう…」
「ああ、それは十一億百四十四万三千百二十一だよ」
「十一億〜?」
「もしもそれが、そいつの盗みたい物の値段だったら困るから、数えてみたんだ」
「そんな価値があるような物、この街にあったっけ?」
「…これといって思いつく物が無いし、その文はわけがわからない。だから困ってるんじゃないか」
そう言われてみればそうか。
「もう朝からずっとこれについて悩んでたんでね。もうそろそろ悪戯だと割り切ろうかと思って」
朝からずっとって…相変わらず暇なんだね…。
そう思ったけど口には出さなかった。
「じゃあこれ、貰っていって良い?」
僕がカードを指差すと、おじさんは頷いた。
「ああ、もう好きにしてくれ。呼び出して悪かったな」

 

家に帰って、夜までこのカードについて悩んだけど、いまいちひらめかない。
「白い猫…。泣き声…」
どうも繋がらないんだよなぁ…。
カードをよく見ても、やっぱり仕掛けもないし。
思わずカードを投げ出す僕。

ベッドの上でゴロゴロしているうちに、なんだか眠くなってきた。
「あー、もうすぐ10時か…」
こんなに悩んだままじゃ、今夜は変な夢でも見そうだなぁ。
…。
…。
…今夜?
なんだか今日は、この言葉をやたらと目にしたような気がする。
一体何処で?
……今日僕がずっと目にしてたものといえば…カードだ!

僕は慌ててカードを見た。
「…あった!」
そうか、この文はそういう事だったのか!
こんなに単純でよくある仕掛けに、どうして気付かなかったんだろう?
いや、単純でよくあるからこそ気付けなかったのかもしれない。

ちらりと時計を見ると、後5分しかない。
ココからあの場所までは10分はかかるのに。
僕は慌ててケープと帽子の探偵スタイルになって家を飛び出した。
本当はおじさんに連絡しなきゃいけないんだろうけど、そんな暇は無い。

 

走って走って、僕はようやく目的地に辿り着いた。
そう、ココは大時計の真下。
時計の手入れの為の建物だ。
階段を駆け上がり、その上の梯子に手をかけたその時…。
「…5分の遅刻だよ」
突然話し掛けられ、驚いて上を向くと少年が大時計の縁に座って、こっちを見て笑ってた。
青い髪、単眼鏡。
そして、白いシルクハットにタキシード、それからマント。
おまけに…猫の耳と尻尾!
「白い猫…?」
いや、その耳と尻尾自体は茶色いんだけど、彼の服装からすると確かに白い猫。
「招待状は届いたかな?」
白い猫(推測)は不敵に笑う。
しょうたいじょう〜??
「コレは僕宛てだったって言うのか?」
僕は、白い猫にカードを突きつけた。

意味の無い変な文章。
与えられたヒントを元に縦に読むんだ。

『今は無き館。
 夜に聞こえる泣き声。
 「助けて」
 十を数えてぽたりと垂れる。
 それは時を越えた思い。
 それは大いなる叫び。
 もう時間が無い。
 計器が狂い、壊れた日。
 暁にはもう消えた。
 てが届きそうな宝。』

ヒントは『1101443121』

つまり、一行目は1だから「今」次は「夜」。
三行目は0だから飛ばして…。
そう読んでいくと、『今夜十時大時計にて』
…この街で大時計と言ったら、この中心の時計しかない。
『て』が『手』じゃなかったことに、すぐに疑問を持つべきだったんだ。
せめて、「なんとなく変だな」程度には。

「そうだよ。君への招待状だ」
白い猫は、さらりと返す。
「だったらどうして直接僕に送らなかった?」
そう訊いたら彼は、くすくすと笑った。
「だって普通、こんなの家に届いたって、ただの悪戯だと思って捨てちゃうだろ?
君は刑事さんと仲が良いみたいだから、警察経由ならちょっとは真面目になってくれるかなって」
ムカーッ!
な、何て奴だ!
「まあ、ちょっと遅れたとはいえ、ちゃんと来てくれて良かった。
君にはこうして、挨拶をしたかったしね」
そう言って、白い猫は伸びをした。
「今回は小手調べ。まあ仕事始めの前哨戦って所かな」
「?」
「…僕は白い猫。欲しい物は何でも手に入れる…まあ所謂怪盗だ。
この街でなかなか有名な君と、戦ってみたいんだよ。
今後も僕は、君の所に招待状…いや、これからは予告状かな、まあそういうのを送るよ。
僕の先回りをして、捕まえてごらん。…できるものならね」
「何だと!?」
顔まで見せておいて、何て堂々としてる奴なんだ!
「じゃあ今日は何も盗らずにこのまま逃げるって言うんだな?」
仕事始めってことは、まだ何も盗んだ事が無いんだ。
それじゃあ今すぐ捕まえることはできない。
「いいや、今日もちゃんと欲しい物は頂くよ」
白い猫は、僕の予想に反してそう言うと、ふわりと僕の隣に飛び降りた。
そして僕の鼻に人さし指を当てて囁く。
「君にとって、とても大切な物。そう……遅刻しちゃった、君のプライド」
「!!」
僕がカッとするより先に、白い猫は僕からさっと離れる。
「今度からは、約束の時間を守ってくれよ、狼さん」
シルクハットを挨拶するように軽く上げて。 そして、そのまま姿を消した。
僕は憤りを感じながらも、それを見送るしかなかった。

 

 

これが、僕達の出会い。
言っていた通り、白い猫はいつだって僕に予告状を送りつけてくる。
「今度は、どうかな?」

何故か僕は、いつもいつも裏をかかれて取り逃がす。
「こ、今度こそ!」

いつの日かいつの日か。
そう思って23戦23敗。
出会った時に盗られちゃったプライドは、まだ取り戻せていない。
顔を見ている以上もしかしたら簡単に捕まえられるのかもしれないけど、それじゃ僕のプライドは盗られっぱなしだ。
絶対に僕が捕まえてみせる。

 

 

今夜も白い猫の影とそれを追いかける僕の影。
大時計の下は賑やかだ。

 

 

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