そこが一体何処なのか。
我々が一体何をしていたのかは一切不明だった。
が、何かに追われるような感じで酷く焦っているのは確か。
目の前にある大きな扉にすがるように、開けてくれ、開けてくれと叫んでいる。
ああ、今にも追いつかれてしまいそうなのだ。
ああ、逃げなければ大変な事になってしまうのだ。

すると、扉の横にある機械をいじっていた男が言った。
『よし、これで扉が開くぞ』
わあっと歓声が上がる。
最後の力を振り絞るようにして、我々はその扉を押した。
ぐぐぐ…と低い音を上げて扉が開いていく。
皆、我先にと扉の向こうへ飛び込んだ。

さあ、自分も、と思いつつ、ふと横を見ると、先程の男は機械の前に立ったまま扉の向こうを見ている。
「行かないのか」
そう尋ねると、男は微笑みで応えた。
『行きたいのなら、早く行けば良いだろう』
扉を開いてくれたのは感謝するが、何とも奇妙な男だ。
しかし、逃げたくないというのなら仕方ない。
無理強いせずに、自分だけ逃げるのが良いだろう。
そして駆け出し、扉を抜ける瞬間、痛い程に冷たい風が吹いて思わず立ち止まる。
暗い。
足元には、何も無い。
扉の向こうにあるのは、奈落の底だけだった。
遥か遠く、底の方から聞こえてくるのは、扉の向こうへ走って行った彼らの声だろうか。
ごくりと喉が鳴るのがわかった。
後ろから足音が聞こえるのもわかった。
振り返る前に、その足音の主が言う。
『行きたいのなら、早く行けば良いだろう』


ドン、と背中を押され、声を上げる間もなく落ちていく。
いつまでもいつまでも、底に辿り着く事無く。



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