場面:月の店
夜、商売道具を片付けている月。
手元が影になったので顔を上げる。

『……一体どっから入ったよ』

吊るされ人

『そこんトコ、開いてたから縮んで』

『人間の世界じゃ、それは犯罪っていうもんだ』

吊るされ人

『お前らのルールなんて知るか。
開いてりゃ入る。
風と同じさ』

『…へーへー……。
で、一体何の用さね。
アンタだろうがさ、二度と姿見せんなって言ったんは。
アンタの方から来てどうするよ』

吊るされ人

『そりゃあもう会いたくなんて無かったさ。
でも、肝心のあの子の名前と住んでる場所がわかんねぇんだよ』

『は?』

吊るされ人

『最近森に来ないから、こっちから会いに来たんだ。
ところがあの時、うっかり名前を聞き忘れてた。
…で、ムカつくけど、あの子が言ってたお前の名前を頼りに来たんだよ。
何か知らんが、お前は有名らしくてすぐにわかったから』

『ははー……、とどのつまり、俺に、アイツの名前と家を教えろと』

吊るされ人

『その通り』

『阿呆帰れ』

吊るされ人

『一息で言ったな!!』

『あん時の流れを忘れたんか。
何で俺がアンタにアイツの事を教えると思う』

吊るされ人

『もう突然の求婚はしねぇよ。
じっくり俺の思いを伝えていくから、な?』

『………無いな』

吊るされ人

『何でだよ!』

『アンタは森人、アイツは人間。
一番簡単な理由は、寿命さね。
アンタら、俺らとどんだけ違うかわかってんのかい?
たった一人だけ変わっていくなんて、本人も周りも辛いだろうよ』

吊るされ人

『う…うう…』

『それから、アイツは今、一人の事しか見えてない』

吊るされ人

『好きな人がいるのか!?』

『…そうさねぇ…。
アンタのアイツに対する「好き」と一緒かどうかは知らんが。
とにかく、そいつの為に一生懸命なんよ』

吊るされ人

『うー………』

『だから諦めときな』

吊るされ人

『…久し振りの一目惚れだったんだ。
そう簡単に諦められるか』

『……やれやれ…』

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