「彼が目覚めたら、すぐに皆に知らせましょう」
「そうだね、嬉しい知らせは早いほうが良い」
神サマは、藍色の髪の青年の言葉に素直に頷きました。
すぐ傍のベッドでは、少年がすやすやと眠っています。
彼を見る神サマの目は、とても穏やかでした。
「では、向こうで準備をしておきます」
「ああ頼むよ」
ぱたん。
青年が部屋を出る際に立てた扉の音。
決して大きくはありませんでしたが、それに反応する声が。
「ん〜…」
「おや?」
青年を見送っていた神サマが振り返ると、水色の大きな瞳が彼を見つめていました。
少年が目を覚ましたのです。
「…ココは何処ですか?」
いかにもまだ寝ぼけているといった状態で話す少年に、神サマは思わず笑ってしまいました。
「ココはこれから君が守ることになる宝瓶宮だよ」
そう言いながら、神サマは少年の頭を撫でました。
「それから私はこの天界を治めている…」
「神サマですか?」
思いがけず正解を言われて、神サマはちょっとビックリ。
「…よく知っているね」
「ボクは、神サマを守るために生まれてきたんです」
少年は、ニッコリ笑いました。
「ボクの名前はアクエリアス。神サマ、これからどうかよろし…」
「ちょっと待って」
神サマはアクエリアスの言葉を途中で止めました。
「挨拶は、向こうでやろうか」
アクエリアスをベッドから下ろして、神サマは服を出します。
「向こうって何処ですか?」
「皆の所だよ。さあ、コレに着替えて」
+++++
神サマとアクエリアスは、謁見の間につきました。
神サマが普段ガーディアン達と会うときは、いつもココなのです。
扉を開けると、他のガーディアン達はもう皆集まっていました。
「随分早かったんだね、皆」
神サマはちょっと気圧されている感じのアクエリアスを促して、神座につきました。
その隣には、ちょこんとアクエリアス。
「もうココに集まっているからには皆分かっているね。
この子が新しい君たちの仲間だよ」
硬い挨拶が苦手なので、神サマはそういうことを抜きにして話を始めました。
もちろんガーディアン達もそんな事には慣れっこです。
「さぁ、アクエリアス。挨拶してごらん」
ぽん、と背中を押されて、アクエリアスは立ち上がりました。
自分以外の12人のガーディアンの目が、一気に彼に注がれます。
「えっと…、ボクはアクエリアスです。
これから皆さんと一緒に頑張って神サマを守っていこうと思ってます…。
だから、どうかよろしくお願いします…!」
ぺこり。
わたわたとしながら、アクエリアスは一生懸命挨拶しました。
それを見て、神サマはまた笑うのです。
「そんなに緊張しなくていいんだよ。
皆もう、わかってるから」
そういうと神サマは立ち上がって、今度はガーディアン達に言いました。
「じゃあ、今度は皆が挨拶してやってくれるかい?」
その言葉を受けて、藍色の髪をした少年と少女が前へ出てきました。
年の頃はアクエリアスと同じくらいです。
「では、我々から始めてよろしいですか?」
「そうだね。第一位からの方が、アクエリアスにも分かりやすいだろう」
二人は一礼して、アクエリアスの前に立ちました。
「我々は、ガーディアン第一位、ジェミニ。双子宮を守らせて頂いている」
「わからない事があれば、私たちに訊いてくださいね」
アクエリアスは、困惑したように尋ねます。
「あの、ジェミニさんはどっちのお名前ですか?」
それを聞いた二人は微笑んで言いました。
「気にしなくていい」
「どちらを呼ぶ時にも『ジェミニ』で構いません」
よく意味がわからずにアクエリアスが首をひねっていると、
今度は空色の髪をして、魚のぬいぐるみを抱えた女の人が前にきました。
「ふふふ〜。良かったわ〜、想像どおりの可愛い子で。
私はガーディアン第二位のパイシーズ。
普段は双魚宮にいるから、遊びに来てね」
そういうと、スキップしながら向こうへ行ってしまいました。
アクエリアスは密かに、なんて明るいお姉さんなんだろう…と思いました。
次にきたのはふわふわと羊のような服を着た少年。
「第三位、アリエス。ボクは白羊宮の図書館にいるよ。
君より少しだけ上のカプリコーンもいる事だし、興味があれば来てみるといい」
それからとても薄着で綺麗な黒い長い髪の女の人。
「ヴァーゴ。第四位で処女宮におりますわ。
別にたいしたものもありませんけど、何かあればいつでもどうぞ」
そして、真っ赤に燃えるような髪の青年。
ちょっと目つきが怖い感じです。
「第五位のスコーピオだ。天蝎宮を守っている。
下界に近い所だからな。あまり来ない方がいい」
と、そんなスコーピオを押しのけるようにして、オリーブグリーンの髪をした大きな青年。
気さくにアクエリアスの頭をぽんぽんと撫でてきました。
ニコニコととても優しそうに笑います。
「俺はタウラス。第六位ってことになってるが、一応スコーピオと同期だ。
一番下界に近い金牛宮にいるぞ。
ちょっと危ないところだけど、俺子供が好きだからさ、遊びに来てくれよ」
「馬鹿が…。子供が好きならそんな危険な所に呼ぶか」
「何だと!?」
睨みあうタウラスとスコーピオを尻目に、弓を持った狩人風の少年が前に出てきました。
「まあアイツらはいつものこった。気にしないでおけよ。
オイラは人馬宮のサジタリウス。第七位だ。
アリエスを狩る事に命をかけてるんだ。
お前も狩りたくなったらいつでも仲間に入れてやるぜ」
アリエスさんを狩る!?
そんな事言われてもな、とアクエリアスは苦笑しました。
すると、とっても明るい女の子の声。
「は〜い、キャンサーちゃんで〜す♪第八位…かな?
ホントは巨蟹宮にいるんだけど、普段は愛を貫くべくライブラの所にいま〜す。
私に会いたかったら、是非是非遊びに来てね♪
ライブラと二人で待ってるわ」
今度はそれに負けないような元気いっぱいの男の子の声。
「おーっす!俺様は第九位のレオ。獅子宮でいつも鍛えてるんだ。
お前も強くなりたかったら来てみろよな!」
そう言って、ぴょんぴょん飛び跳ねます。
それに当たらないようにこっそりと前に出てきたのは、金髪で眼鏡をかけた少年。
「こんにちは。ボクは第十位のライブラ。普段は天秤宮で静かに研究をしてるよ」
「全ては私のための研究なの!」
「お前いつもそればっかりだな」
「うるさいわね!」
「キャンサーちゃん、レオ君落ち着いて…。
と、とりあえず、気が向いた時にでも声をかけてみてね」
大騒ぎの二人とそれをなだめるライブラがどくと、本を持った女の子がおどおどと立っています。
「え、えーと…その…。私…第十一位のカプリコーンです…。
磨羯宮担当ですが…いつもはアリエス様の図書館にいます…。
私もまだ創られたばかりなので…わからない事だらけですけど…。
あの、よろしくお願いしますね…」
そう言うと、逃げるようにアリエスの隣に走っていきました。
もう終わりみたいなので、アクエリアスは一息。
なんとも色々な人たちだ、と思いました。
「さて、なんとなく分かったと思うけど」
神サマが横で言います。
「このガーディアン内では生まれた順に位がつく。
だから君は十二位のアクエリアス。
そしてさっき言った通り、宝瓶宮を守ってもらうよ」
「は、はい!」
「大変だろうと思うけど、頑張ってね」
そして神サマは立ち上がって皆に言いました。
「コレで十二位全員が揃ったわけだ。
頼りない私だけれど、どうかこれからもよろしく頼むよ」
ガーディアン達はその言葉に力強く頷くのでした。
+++++
「アクエリアス」
夜、神サマが宝瓶宮を訪ねてきました。
「何ですか?神サマ」
「初めての夜を、1人で過ごすのは淋しくないかい?
もし何なら、アリエスの所にでも連れて行ってあげよう。
あそこなら寝具も余っているだろうし、きっとカプリコーンもいるよ」
神サマは心配そうに言いましたが、アクエリアスは首を横に振りました。
「大丈夫ですよ。
だってボク、ガーディアンですから」
それを聞いて、神サマはちょっと苦笑しました。
「さっき私はああ言ったけれどね」
「?」
「本当は私より宮より、君には君自身を守ってもらいたいんだよ」
「ボク…自身?」
「私を守ろうと無理をしないで、何をするにも自分を優先して。
…それを約束してくれるかい?」
「でも、ボクは…」
ガーディアンとして、神サマを守る為に生まれたのに…と、
アクエリアスはそう言いたかったのですが、そんな事は言えませんでした。
何故だかわからないけれど、神サマはとても悲しそうな顔をしているのです。
思わず頷いてしまいました。
「…ありがとう」
神サマは優しくアクエリアスの頭を撫でて立ち上がります。
「おやすみ」
「…おやすみなさい、神サマ」
ドアが閉まるのを大きな瞳で見送ると、アクエリアスはベッドに倒れ込みました。
今日はずっと緊張していて、とても疲れたのです。
…明日から、頑張ろうっと。
そう考えたのも束の間。
アクエリアスは、すぐに眠ってしまいました。
+++++
「良い子で良かったですね」
藍色の髪の青年が言いました。
それに、神サマが笑って応えます。
「その辺りの心配は、最初から無かったよ。
…コレも親馬鹿というのかな」
その言葉に、青年は笑い返します。
+++++
どうか皆、仲良くやっていけますように…。
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