「んー、良い天気ー…」
とある晴れた日。
アクエリアスはのんびりと宮の外を散歩していました。
ぽかぽかとしたお日様の光がとても気持ち良いのです。
こういう日は、外で色々と眺めながら草木と戯れるのが一番。
ついでに魔法の練習なんかもしてみたりして。
「瓶さん、瓶さん、お水を出してー」
ハンディサイズの水瓶を前に向けてお願いしてみます。
でも。
しーん…。
「あれ?おかしいなぁ…」
水瓶を覗き込んでみたけれど、水一滴出てくる気配がありません。
「また失敗しちゃった…」
アクエリアスは、水を操る魔法を得意としている…ハズだけれど。
いやはやしかし、まだ創られたばかりの彼は、上手く水を操れないのです。
今回は水が出てこなかったけれど、この前は水が止まらなくなって大変な事になってしまったり。
しょんぼりしながら散歩を続けていると、白羊宮から少し離れた所にカプリコーンが立っていました。
何やら大きな箱が傍にあって、彼女はその傍でオロオロしているようです。
「どうしたんですか?」
近付いて声を掛けると、彼女は一瞬ビクッとしました。
けれど、相手がアクエリアスとわかって、ちょっとホッとしたようです。
小さな声ですが、はっきりと応えました。
「あの…コレ…」
そう言って、大きな箱を指差します。
「アリエス様の図書館に届いた新しい本なんですけど…重くて運べないんです…」
確かに。
とても大きな箱です。
この中に目一杯本が詰まってるとしたら、それはそれは重いことでしょう。
聞けば、運んできてくれた天界の運送屋さんも、重すぎるからココまでしか運んでくれなかったとか。
それでカプリコーンはとても困っていたのです。
「…中のものを少しずつ運んでも良いのですが…、やはり勝手に開けるのは良くないと思って…」
アクエリアスはニッコリ笑って言いました。
「ボクも手伝います。一緒に運べばきっと大丈夫ですよ」
それを聞いて、カプリコーンの顔がパッと明るくなりました。
「…ありがとうございます」
というわけで、2人で箱の両側に手を掛けて。
「それじゃ、せーのっ!」
しーん…。
「……あれ……?」
大きな箱は、全然動きません。
「うーん……ボクたちの力じゃ無理みたいですね…」
「困りました…」
そこへ通りかかったのは第十位のライブラ。
「どうしたの?2人とも困った顔して」
かくかくしかじか。
2人は今の状況を簡単に説明します。
するとライブラはコクリと頷いて、ボクも手伝うよ、と言ってくれました。
「えーと、この3人で持つなら、まずアクエリアス君がココ、カプリコーンちゃんはココ」
そう言いながら、それぞれが持つ場所を指差します。
「それでボクがココを持てば、力の働き具合が一番良いと思うんだけど…」
トントンと指で箱を叩きながらブツブツ。
箱の大きさを見て、色々と簡単に計算したようです。
こんな箱を持ち上げるのに計算なんて…という気もしますが、まあライブラはいつもの事。
「じゃあ、持ってみようか」
3人が持ち上げると、箱が何とか地面から離れます。
ようやく腰の辺りまで持ち上がりました…が。
「お、重いですー!」
「あ…あの…コレ…」
「下ろそう!下ろそう!」
ぜーぜーぜー。
3人は肩で息をしながらぐったり。
「とてもじゃないけど運べないね、コレは…」
小柄な3人は、どうしようかと顔を見合わせました。
3人の息が落ち着いてきた頃、ひょっこりタウラスが顔を出しました。
「何だー?お前たち死にそうな顔してるぞ?」
そして、傍にある箱を見てくすりと笑います。
「ははーん…、コレを運ぼうとしてたな?ちょっとお前たちには無理だろう」
アクエリアスが頷きながら応えます。
「無理でした…」
「アリエスはいつも無茶な量を一気に頼むからな。運送屋も一苦労らしいし」
そんな事を言いながら、タウラスはその箱をひょいっと持ち上げてしまいました。
アクエリアスたちにとって凄く凄く大きなその箱は、彼にとってはそうでも無い感じです。
重さもそれほど感じていないような…。
「で?何処に運べば良いんだ?」
慌ててカプリコーンが答えました。
「あ、図書館の中のですね…」
そしてタウラスを先導します。
ちょっと進んだ後、アクエリアスたちの元へ戻ってきて、ぺこりと一礼。
「…あの…ホントに…どうもありがとうございました…」
2人が図書館に消えていくのを見ながら、アクエリアスとライブラは顔を見合わせて苦笑します。
「さすが、タウラスさんだね。とてもじゃないけどボクにはあんな事はできないよ」
毎日毎日研究室にこもりきりで、ただでさえ運動不足だし…とライブラが言いました。
「それじゃ、ボクも部屋に戻ろうかな。じゃあね、アクエリアス君」
去っていくライブラを見送りながら、アクエリアスは大きな溜息をつきました。
+++++
その夜。
神サマが庭を歩いていると、誰かの声が聞こえてきました。
そっと声のする方を見てみると…。
――アレは…、パイシーズとアクエリアス?
所々に置いてあるベンチの1つに座って、何やら深刻そうです。
「それで…何を悩んでるの?」
元気の無いアクエリアスに、パイシーズが語り掛けます。
――悩んでいる…だって…?
神サマはそれを聞いてとても心配になってしまいました。
アクエリアスが悩んでいるなんて、放っておけません。
思わず2人の目の前に飛び出して行きそうになる気持ちを抑えながら、もう少し様子を窺う事にしました。
アクエリアスは俯いたまま、パイシーズに言います。
「ボクは…神サマの役に立てるんでしょうか…?」
「え?」
「ボク、魔法もちゃんと使えないし、力だって全然無いんです」
そして、パイシーズの方をじっと見ました。
「ずっと見てたんです。神サマのお仕事。とっても大変なんです。
皆神サマにいっぱいいっぱいお願いして、頼ってくるんです。
でも、神サマは誰にも頼れない…。1人で頑張ってるんです」
――…アクエリアス……。
神サマはそれを聞いてとても驚きました。
「だからボク、少しでも神サマのお手伝いをしたくて、役に立ちたくて、でも…」
真剣なアクエリアスの頭をそっと撫でながら、パイシーズが優しく言いました。
「貴方こそ、1人で抱え込まないで?
私たち、何のために13人でガーディアンをやっているのかしら?」
「…!」
「まして、貴方はまだ創られたばかりじゃない。
まだまだこれからよ。貴方の一生懸命な気持ちはきっと神サマに伝わってるわ」
「…そう、ですか?」
パイシーズはゆっくり頷きます。
「皆で頑張るの。ね?皆で頑張ってあの方を支えていきましょう?」
「……はい!」
元気の出てきたアクエリアスは、ニッコリと笑いました。
その背中を、ポンポンッと叩いてパイシーズも笑います。
「さあ、今日はもう寝なさい」
「はーい」
その会話を聞いていた神サマは、ふーっと息を吐きました。
――アクエリアスにあんな事を考えさせてしまっていたなんて…。
思わず苦笑いを浮かべます。
――私もまだまだだな。
そう思いながらも、先ほどのアクエリアスの言葉が頭の中に周ります。
『だからボク、少しでも神サマのお手伝いをしたくて、役に立ちたくて、でも…』
――創られてから本当に短い間、私の仕事を見ていただけであんな事を思ってくれるなんて…。
今度は、嬉しくて思わず笑みを浮かべます。
――コレからが楽しみだな……。
+++++
その話を聞いて、藍色の髪の青年が微笑みました。
「それは…嬉しかったでしょう…」
神サマは、本当に嬉しそうに笑います。
「……とてもね」
言葉には、表せないほどに。
+++++
最初は皆、何もできないものだから。
少しずつできるようになれば良いから…。
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