ゆっくりと目が開いていきます。
見えるのは、赤い瞳。
長く伸びた赤い髪を気にする様子もなく、彼は目を開いた時と同じようにゆっくり起き上がりました。
手も、足も、何の問題も無く動きます。
痛みもありません。
それを確認した後で、今度は辺りの様子を探ります。
自分が寝ていた所以外には何も無い。
そう思いましたが、首が右に向いていくにつれて何かが見えます。
…足…のようです。
自分の足ではありません。
しっかりと右を向いて見てみれば、オリーブグリーンの髪の少年がすやすやと眠っていました。
――何だコイツは…。
赤い髪の少年はそう思いました。
自分の事は知っています。
――スコーピオ…俺の名前…。
でも、隣にいる少年の名前は知りません。
「……起きろ」
ゲシッという音が聞こえるくらい強く、隣の少年を蹴りました。
しかし、彼は起きる気配がありません。
――寝起きの悪い奴め…。
スコーピオはちょっとイライラしながら、今度は顔を遠慮なく叩きました。
鼻が潰れてしまいそうな感じに、ベシッと。
流石にグーではなくパーですが。
「起きろ」
すると、ようやく彼も『何かをされた』事に気付いたようです。
「んん〜…?何だぁ…?」
如何にも眠そうに目を擦りながら起き上がりました。
先程のスコーピオと同じように辺りを見回して、左を向いた所で首を止めます。
「…お前誰だ…?」
ボンヤリとしながらも、先に訊こうとしていた事を言った彼に、思わずスコーピオはもう一撃蹴りを入れてしまいました。
もう目が覚めている彼は、当然怒ります。
「なっ!何するんだよお前!」
その一撃のおかげですっかり目が覚めたらしい彼が、お返しというように蹴り返してきました。
後はもう、当然の如く子供の喧嘩。
髪を引っ張ったり頬を伸ばしたり、もうやりたい放題。
2人の様子を見に、藍色の髪の青年が部屋に入ってこなければ、ずっと喧嘩をしていたかもしれません。
コレが2人――スコーピオとタウラスの出会いでした。
「――何だその姿は…」
謁見の間につれてこられた2人を見て、神サマが呆れた声を出しました。
何故なら、創られてようやく目覚めたばかりのはずの2人が痣だらけだったからです。
しかも、お互いを見ようとしません。
藍色の髪の青年が苦笑しながら説明します。
「…あまり、相性が良くないようですよ」
それを聞いて、神サマが大きな溜息をつきます。
「そうか…相性の事なんかさっぱり考えなかったな…」
強けりゃ良いって思ったんだが、と呟いて頭を掻きました。
「まあ、仕方ない」
言いながら、2人の前に歩いてきました。
そしてわしゃわしゃと頭を撫でてきます。
「スコーピオ、タウラス。これからお前たちは一緒にこの天界を守るんだ。良いな」
『一緒に』
その言葉にスコーピオが素早く反応しました。
「誰がこんな奴と…」
タウラスも負けじと言います。
「いきなり人のこと蹴飛ばす奴となんか一緒には出来ねぇよ」
神サマは、どうしたものか…と思わず藍色の髪の青年の方を見ました。
…が、藍色の髪の青年は苦笑するばかりです。
「良いか、お前たち」
仕方が無いので神サマはしゃがみこみ、2人に目線を合わせて言いました。
「お前たちは、これから協力して、下界からこの天界を守るわけだ。
別にお前たち2人だけじゃない。他のガーディアンたちと一緒にな」
神サマとの謁見が終わり、それぞれの宮へ案内された2人は最後に睨み合いながら分かれました。
自分の宮へ入ってから思うことはただ1つ。
――アイツは嫌な奴だ。
どう考えてもスコーピオが悪いのですが、もうココまできたらどちらがどうこうという問題ではありません。
――なんでよりにもよってアイツが隣の宮なんだ…。
力などの戦闘能力重視で創られた2人は、下界に一番近い宮の守護を任されたのです。
天界は、基本的に円を描くように宮が建てられています。
北側の門が、下界へ通じている道。
そこの傍の宮を任された、という事は、自然2人の宮は隣同士。
下手をすると、朝起きて庭に出ただけで顔を合わせてしまうかもしれません。
――そんなの、考えただけでもぞっとする…。
勿論2人は知りませんが、ほぼ同時にほぼ同じ事を考えるなんて、実は思考が近いのかもしれません。
ムカムカするからもう寝よう、と布団にもぐりこんだのもほぼ同時だったのでした。
+++++
「如何なさいますか?」
藍色の髪の青年が、微笑みながら神サマに尋ねます。
「2人ともそれぞれ、貴方にそっくりだと思うのですが」
神サマは、苦笑いしながら応えます。
「どうするもこうするも、創っちまった以上はしっかり育て上げないとな」
天界中を見下ろしながら、神サマは伸びをしました。
ガーディアンの宮が描く円の中心に、神サマの宮は建てられています。
だから、屋上へ出れば、全ての宮を見渡す事が出来るのです。
神サマは、この場所がとても好きで、何かあればすぐにココに上って考え事をします。
それを知っている藍色の髪の青年は、神サマの姿が見えなくなると、まず最初にココに来るのでした。
目を細めながら、神サマはスコーピオたちの宮を見ます。
「まだまだ子供だからああなだけだろ。相性なんて、これからどうにかすれば良いさ」
「…そう…ですね」
「で、さっさとデカくなって貰って、下界の奴らと大暴れだな」
ガーディアンは、最初から大人の姿で創り出す事は出来ません。
ある期間が経ってようやく、大人の姿か子供の姿かを選ぶ事が出来るようになります。
そして、どちらかの姿を選んだら、もうずっとその姿のままなのです。
「あまり過激な事はなさらないで下さいね」
藍色の髪の青年の言葉に大笑いをしながら、神サマは階段を下りていきました。
+++++
「あの日から、どれくらいの時が経ったのだろうか…」
藍色の髪の青年は、ふと呟きました。
それに気付いた彼の妹が振り返りましたが、青年は彼女の方を向きません。
「彼らは、姿こそ大きくなったものの、何も変わってはいないな」
+++++
今日も、タウラスは金牛宮の傍の木に登って下界を眺めています。
「…暇だなぁ…」
平和は良い事、平和は良い事、そう自分に言い聞かせながらも退屈は退屈。
今日何度目かわからない欠伸が出そうになった所で、突然後頭部に石が飛んできました。
「いてっ!」
何が起こったのかと辺りを見回すと、木の根元に見慣れた赤い三つ編み。
「スコーピオ!やっぱりてめぇか!何しやがる!!」
タウラスは怒って怒鳴りますが、スコーピオは平然とした顔。
「召集だ。聞こえないようならそんな所に登るな」
「だからって石投げる事は無いだろうが!!」
「貴様と違って声を張り上げるのは好きではないのでな」
「――――〜〜!!」
「毎度毎度、貴様を呼びに来させられる俺の身にもなってみろ」
2人はほぼ同時に創られた、という事で、何かあった時は必ずセットにされるのです。
当の本人たちは、それがたまらなく嫌なのですが…。
「逆の時だって、無い事は無いだろ」
木から飛び降りたタウラスは、ボソッと言いました。
タウラスと並んで歩きたくないスコーピオは、さっさと歩き出しています。
「…絶対量が違うだろう…馬鹿が…」
「あ、てめぇ!また『馬鹿』って言いやがったな!言い過ぎなんだよ!!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。馬鹿が」
「っのやろ…!!」
+++++
「雄々しき神は、今の彼らを見てどう思うだろうね?」
神サマが笑って藍色の髪の青年に言いました。
今の神サマは、雄々しき神と青年の会話を知らないはず。
それなのに突然そう話し掛けられて、青年はちょっと驚きました。
「案外、こうなる事をわかっていたかもしれませんよ。
だって2人は、本当に雄々しき神の性格にそっくりなのですから」
創られた時からの関係だから、多分2人はこれからもずっとこんな調子。
恐らくそれが、2人の一番。
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