ベッドに横になったままの神サマが言います。
「あっけ、ないんだよ」
彼に呼び出され、隣りに置いてあった椅子に座っていた男が首を捻りました。
色素が余り濃くない、黄緑色の髪が揺れます。
「あっけない?」
何もわからないというのが張り付いたその顔を見て、神サマが苦笑しました。
「わからないのも無理はない。が、しかし」
起き上がろうとする神サマを、男は慌てて制します。
「起きては駄目ですよ」
けれど、そんな男の忠告を素直に聞くような神サマではありません。
ゆっくりと、しかし完全に起き上がってしまいました。
「――お前にもいつかこの時は来る」
その神サマの言葉に、男は一瞬驚いたような顔をして、彼の顔を覗き込みました。
すると、神サマは穏やかに笑って、またゆっくりと横になったのでした。
「アイツはとても深い感じだったからそうつけた。お前は俺に、どんな…」


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 「さて、貴方に一番最初にやって頂く事なのですが」
藍色の髪の青年が、新しく神サマになった黄緑色の髪の男の前に立ちました。
「そうですね。まず先代の呼び名を――」
青年の言葉の途中で、新しい神サマは右手を前に出しました。
「何か?」
「先代から、言われている事があるんだ」
そう言って神サマは、神の間の奥へ入っていきました。
そこは、ガーディアンが創られる所。
大きな機械仕掛けの水槽が並んでいます。
その中で一つ、ボコボコと泡を立てているモノが。
中にボンヤリと何かが見えます。
「――コレは…」
神サマについてきた藍色の髪の青年は、その水槽を上から下までじっくり眺めます。
「先代の…」
すると神サマは小さく頷いて、水槽の下の赤いスイッチを押しました。
泡が止まり、水が何処かへ消えていくと女の子の姿がはっきりと見えるようになりました。
「…もしや、カプリコーン?」
青年の言葉に反応するように、女の子がゆっくりと目を開きます。
そして、2人をボンヤリと見た後、少し眉をひそめました。
「ど、何方…ですか?お父さんは…何処に…」
その言葉に、神サマと青年は顔を見合わせました。


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 普通ガーディアンは、創り出され、覚醒した時から神サマの事がわかり、神サマを守るという意識を持っています。
けれど、どうやらこのカプリコーンは少し違うようです。
神サマたちは彼女を神の間に連れて行きましたが、彼女はただおろおろとするだけ。
「あの…、お父さんは…」
藍色の髪の青年もこんな事は初めてらしく、ちょっと困った顔をしています。
神サマは優しく優しく言いました。
「君の名前は?」
「………カプリコーンです…」
ふむ、と頷いて次の質問をします。
「君は、ガーディアン…だよね?」
「………はい……」
藍色の髪の青年の方を向くと、彼もまた頷きました。
どうやら、創る時に入れるデータの完全な間違いというわけではないようです。
「えーと……、これから君が何をするのかわかるかな?」
ちょっと安心しながら最後の、けれど一番重要な質問をしてみると、彼女の口から不思議な答えが返ってきました。
「…ず、ずっとお父さんの傍にいます…」
神サマの背中の方から、藍色の髪の青年の溜め息が聞こえてきました。
『どうしたものか』という雰囲気を感じ取ったらしく、カプリコーンは涙目になって言います。
「ご、ごめんなさい…。でも…でも私…お父さんの…」
神サマも困った顔をしていましたが、それでも優しく彼女の頭を撫でてあげました。
「うん。そうなんだ。でもお父さんって…?」
「……神サマです…」
藍色の髪の青年が、頭を抱えました。

 「どうかしたのかい?」
いつも冷静な青年が頭を抱えるなんて。
そう思いながら神サマは声を掛けました。
すると、青年は溜め息混じりに言うのです。
「何て事だ…。神、彼女は先代の憧れです」
しかし、神サマにはさっぱりわかりません。
「神は、先代が下界へ下りるのが好きだった事をご存知ですか」
「ああ、禁止されているのにちょくちょく下りていたようだね」
むしろ彼は、守られる身であるというのに、自ら戦いに行っていたというか。
「下界から帰ったある日、先代はこう言いました。『家族とは、なかなか面白いモノだな』」
それを聞いて、神サマも青年の言わんとしていることがようやくわかりました。
「では先代は、自分を守るべきガーディアンとしてではなく、自分の娘としてこの子を…」
おそらくは、と言いながら青年は頷きます。
「そして自分を父として入力をしたけれど、覚醒前に神の代が入れ替わった為に彼女が混乱を」
そして、青年はカプリコーンを見ました。
彼女は、ビクリと肩を震わせます。
「となるともしや、生まれ方はともあれ、この子は普通の子供と変わらないのだろうか?」
怯えるカプリコーンの頭を軽く叩きながら、神サマは青年に尋ねました。
けれど、青年は首を横に振ります。
「…先代のみぞ知る、という所ですね」


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 「お前は知っているのだろう?」
「何をです?」
「永遠など、無いんだ。そう、神ですら」
神サマの言葉を聞いて、男は少し目を伏せました。
「頼みがあるんだ」
「……私にできる事であれば」
男の肩を軽くつかんで、神サマは頭を下げました。
「もしもカプリコーンの覚醒まで俺がもたなかったら、その時は、何よりも先に――」
言葉に詰まった神サマに、男ははっきり応えました。
「それは言われなくとも…。私はそのようにしか」
すると、神サマは顔を上げて微笑み、男の目をしっかり見ながら言いました。
「――――」


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 ――貴方の言葉は、何て力強かったんだろう…。
そう思いながら神サマが自分の宮の屋上で空を見ていると、藍色の髪の青年が来ました。
「…貴方もココがお好きですか」
「貴方『も』?」
「先代もよく、ココへ来ていたのですよ」
「……そうか……」
2人ともしばらく黙っていましたが、神サマが気付いたように言いました。
「そういえば、カプリコーンは?」
「アリエスが、なだめてます。事情はどうあれ、彼女もガーディアンとして生まれた身。
 落ち着いたら、皆に挨拶をさせねばなりませんね」
「……そうだね」
「それから」
「何だい?」
「ちゃんと先代の呼び名を考えて頂きますよ」
その言葉に、神サマはクスクスと笑いました。
「…何か?」
「いや、それならもう大丈夫」
「…では…」
「彼はあんなにも強く、勇猛な神だった。敬意を表して『雄々しき』神と呼ばせて頂くよ」
「――なるほど」
何故か神サマは、いつまでも笑っていました。


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 「ではこの子は、僕の図書館の整理整頓を手伝ってもらいますよ」
次の日、アリエスがニッコリしながら言いました。
「ああ、それが良いね」
神サマもちょっとホッとした様に言います。
一晩たって、カプリコーンもようやく落ち着いたようです。
「…お父さんは、もういなかったのですね…」
淋しそうなカプリコーンを見て、神サマも淋しそうな顔をします。
「…もし良ければ、ずっと私やアリエス、他の皆の傍にいておくれ」
神サマが優しくそう言うので、カプリコーンも頑張って笑顔になり、頷いたのでした。


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 神サマは、藍色の髪の青年に向かって言いました。
「一度も会えないままなのと、少し会ってすぐに別れてしまうのは、どちらが辛いんだろうね」
青年は、黙ったまま神サマの次の言葉を待ちます。
「私は……別れてしまう事がわかっていても、会える方が嬉しい気がするよ」
「………そう……ですね」
言葉を探す青年に、神サマはこう言うのです。
「あの子にも、せめて一度だけでも彼に会わせてあげたかったね」
それは、とても悲しそうな声でした。
「…ええ」
青年がそう言ったのを最後に、2人はそのまましばらく黙って空を見ていたのでした。




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