「四つ葉のクローバー…ですか?」
夜、神サマはいつもアクエリアスの所で、色々なお話をします。
「そう、クローバーは知っているよね?」
「はい。葉っぱが三枚の、可愛い植物です」
こういう感じ…と、指で宙に形を描きます。
「宮の近くの庭にも、たくさんありますよ」
「うん。あの中にね、たまに四枚葉っぱがあるクローバーがあるんだ」
「珍しいモノなんですか」
「そうだね。そのせいか下界では、それを見つけた人に幸せが訪れる、なんて話もあるんだよ」
「幸せ、ですか!」
アクエリアスの顔が、パッと明るくなりました。
それを見て、神様はニッコリ笑います。
「私の知り合いは、『珍しいモノを見つけ出したご褒美に、神サマが幸せをくれるんだ』と言っていたけれど…」
「神サマが?」
「私はそんな仕事はまだした事ないし、する予定も無いね」
クスクス笑う神様に、アクエリアスは尊敬の眼差しを向けました。
「神サマは、下界のコトとっても詳しいんですね。流石神サマです」
すると神サマは、ちょっと驚いた顔をしました。
「――…うん、そう…かなぁ」
そしてちょっと俯いてから、また笑顔になって言います。
「さあ、お話はもうおしまい。そろそろ眠らないとね」
空にはお月様。
それを見た途端、アクエリアスは欠伸を一つ。
「そうですね。もう寝ます。おやすみなさい、神サマ」
「おやすみ。また明日ね」


+++++


 さて次の日。
アクエリアスは、宮からちょっと離れた所にある草むらに来ました。
彼よりも少し背が高い草が、たくさん生えている所です。
ココは、殆ど誰も来ません。
だから、魔法の練習にピッタリの場所なのです。
余程の失敗でない限り、誰にも迷惑をかけません。
「気を付けるのは、お水の量…」
ブツブツと呟きながら、アクエリアスは水瓶にお願いします。
「瓶さん、瓶さん、お水を出してー」
いつ聞いても少し間抜けな掛け声ですが、コレでも彼は真剣です。
それに応えるように、抱えた水瓶から水が溢れてきました。
「出しすぎちゃ駄目だよー」
すると、バケツ一杯分くらいの水が、ざざっと草むらに掛かりました。
どうやら、水量の調整は成功したようです。
ようやく成功した魔法に喜ぼうとした途端。
「冷てぇー!!」
という声が辺りに響き渡りました。
そして、草むらの中から見たことのある柔らかそうな耳と、先っぽにふさふさと毛が生えた尻尾が飛び出しました。
アクエリアスはびっくりです。
「……レオさん…!?」
ブルブルと頭を振って水気を飛ばしながら、レオはこっちを見ました。
「何すんだよー!」
「ご、ごめんなさい!まさかレオさんがいるとは思わなくて…」
ぴしっぴしっとしっかり尻尾の先からも水をはらい、ごそごそ草むらから出てきます。
「何だ、アクエリアスか」
ならいーや、と言いながら去ろうとするレオに、アクエリアスは声を掛けました。
「あの、レオさんこんな所で何をしてたんですか?」
レオはいつもこんな所にはおらず、自分の宮の傍で修行をしているか、ライブラの研究を見ているはず。
まあ、たまに別の場所にいてもおかしくはないですが、珍しい事は確かです。
隠すわけでもなく、レオはニヤリとしながら言いました。
「ライブラがな、いつも三枚なんだけど、たまに四枚の葉っぱを見つけてくれって言うんだ」
だから草むらの中をゴソゴソと探していた、と。
「でも、いつも三枚なのにたまに四枚って、何だろうな?」
耳をぴくぴく動かしながら、レオは首を捻りますが、アクエリアスはピンと閃きました。
「クローバーですね?」
そうです。
昨日の夜、神サマが話してくれた四つ葉のクローバーの事に違いありません。
するとレオも言います。
「…ああ!そういえば何か、そんな事言ってた気がする」
アクエリアスはウキウキとしてきました。
「それなら、この辺りじゃなくてこっちですよ。ボクも探すのお手伝いします」


+++++


 2人は、宝瓶宮の近くの庭にやってきました。
確かにクローバーが一面に広がっています。
でも、ちょっと見る限りでは、皆葉っぱが三枚しか無さそうです。
「この中から探すのか…」
レオの尻尾がゲンナリと下がりました。
思っていたよりも広いので、骨が折れそうな事を感じ取ったようです。
しかしアクエリアスは、とても楽しそう。
「頑張りましょうね、レオさん!」
すぐに座り込んで、一つ一つ葉っぱの数を数え始めました。
それを見て、レオも少し離れた所に座って、モコモコの指で頑張って四つ葉のクローバーを探し始めるのでした。
「一、二、三…一、二、三…一、二、三…一、二、三…」
一生懸命探しましたが、なかなか見つかりません。
「…面倒だから、この辺の全部持って行っちまうかー」
レオは、そんな事を言い出す始末。
流石にそれはまずいと、アクエリアスは慌てます。
「駄目ですよー、そんなことしたら」
そこでふと思います。
「そういえば、そのクローバーを見つけたらどうするんですか?
 抜いてライブラさんの所に持っていくのか、それともこっちにライブラさんを呼ぶのか…どっちなんです?」
「えーと……わかんねぇけど、抜いた後に駄目って言われると困るから、アイツを呼ぶのかなぁ。
 それで何をするのかは、俺様聞いてないから」
「なるほど」

その後もそんな会話を息抜きに、一面を探しました。
探し始めてどれくらい経った頃でしょうか。
「一、二、三…あ!レオさんありましたよー!」
「ホントか!?」
ついにアクエリアスが、一つ見つけ出しました。
「うわ、ホントに四枚だな」
「不思議ですねぇ」
苦労して探し出したモノの、何が起こるわけではないただの草。
一応色々な角度から観察して、すぐに飽きたレオが言いました。
「んじゃ、俺様ライブラ呼んでくる」


+++++


 レオがライブラを呼びに天秤宮へ走って行った後。
アクエリアスはそのクローバーを見失わないようにじっとしていました。
「本当に四枚だけど、幸せが来るのかなぁ?」
そして、人差し指でツンツンと葉っぱを突付くと、突然クローバーがポンっとはじけました。
「!?」
驚いたアクエリアスは、思わず一歩下がり、用心深く様子を見ます。
はじけた時に現れた煙が消えてきた頃、四つ葉のクローバーの上に、何かが乗っていました。
「……人…?」
そう、小さな人が立っているのです。
ところが、アクエリアスの呟きを聞いたその人は、ぷんぷん怒りながら反論しました。
「人じゃなーい!妖精!いや、精霊?」
自分でもよくわかっていないようですが、人間ではないと言いたいようです。
「ご、ごめんなさい」
よくわかりませんが、とりあえずアクエリアスは謝りました。
「よろしい」
その妖精(精霊?)は、ふむ、とちょっと偉そうに頷いてからニッコリと笑いました。
「やー、長い事飽きずに探して、よく僕の事を見つけたねぇ」
「えーと、ボク、貴方の事なんて探してませんけど」
すると、妖精はガクッと肩を落とします。
「何言ってるんだ。ずっと探してただろう?四つ葉のクローバー」
「え?四つ葉のクローバーさん?」
そういえば、四つ葉のクローバーを突付いた途端に出てきました。
「そうそう。正確には四つ葉のクローバーに住んでる運送屋なんだけど」
「運送屋さん?」
妖精は、ふふーんと自慢気に言います。
「聞いた事無い?四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれるって」
「昨日聞いたばっかりです」
「素直でよろしい。アレって半分ホントで半分嘘」
アクエリアスは首を捻ります。
「半分?」
「僕が住んでる四つ葉のクローバーを見つけた時だけ幸せになれるんだ」
そしてビシッとアクエリアスを指差して続けました。
「つまり、僕は誰かに見つけられる度にその誰かに幸せを届ける。
 そしてその後、他の四つ葉のクローバーに引越しをするわけ」
そうして転々としてきた結果、天界にある四つ葉のクローバーに引っ越してきたというわけだ。
「凄いですねぇ」
「そうだろう、そうだろう」
ふふふ…と嬉しそうに妖精は笑います。
「…で、君も僕が住んでるクローバーを見つけたから、今度幸せを届けるよ」
「え、ボクにですか?」
「そう。どの幸せが僕からのプレゼントかは多分わからないけどね」
まして、人間以外にプレゼントする事は稀なんだけど、とも言いました。
「それじゃ、僕は新しい所へ引っ越そう」
「もう行っちゃうんですか?」
「あまりもたもたしていると、他の人に見つかっちゃうかもしれないからね。
 一つの住処で一つの幸せ。それが僕の中の鉄則だよ」
いつのまにか、何処からか取り出した大きな(といっても妖精にとって大きいだけ)荷物を背負い、アクエリアスに手を振ります。
「それじゃ。また会う可能性は極めて低いだろうけど」
「はい。お仕事頑張って下さい」
アクエリアスが手を振り返すと、妖精は出てきた時と同じ煙を出して消えてしまいました。


+++++


 「アクエリアス君!」
慌てたようにライブラと、彼を呼びに行ったレオが走ってきました。
いえ、実際ちゃんと走ってきているのはレオだけで、ライブラはその後ろをぜーぜー言いながら歩いているのですが。
相変わらず部屋に篭りきりで、ライブラは体力が無いのです。
それでも何とかアクエリアスの所に辿り着き、数回深呼吸をした後言いました。
「四つ葉の…クローバーは…?」
アクエリアスは指を差して答えます。
「コレです」
ライブラは差されたクローバーを見て、触って、じっと観察した後がっくりと肩を落としました。
「…これでも無かった…」
しかし、その後気付いたようにアクエリアスの方を向きました。
「まさかとは思うけど……何か、ココから出てきた?」
アクエリアスは、ウキウキしたように言います。
「はい!凄いんですよ!いきなり煙が出たと思ったらですね、幸せ運送屋さんが…」
と、ココまで言った時、ライブラは頭を抱えて座り込んでしまいました。
「ああああ〜、やっぱり…!!」
驚いて、レオはライブラの周りをグルグル回ります。
「どうしたんだ?なぁ、また気持ち悪いのか?走ったからか?」
どうやらライブラは、ちょっと動いては気分が悪くなり、レオに助けてもらう事がよくあるようです。
でも、今はそういうわけではありません。
「違うんだ。ごめんね、先に事情を言わなかったボクが悪かったよ…」
苦笑いをしながら、ライブラは顔を上げます。
「研究の一つに、クローバーの中の運送屋についてっていうのがあってね」
アクエリアスは、ポンッと手を叩きました。
「さっきの運送屋さん!」
「そう。その話は聞いた事があるんだけど、まだ実物を見たことが無くて」
今まで運送屋が発見された場所を辿っていくと、もしかしたら今天界にいるかもしれないという情報を手に入れたとか。
だから、レオに協力してもらって、四つ葉のクローバーを探していたようです。
「でも、見つけたという知らせを聞くちょっと前、資料の本で嫌な一文を見つけちゃってね」
本曰く、『見つけて、触れると姿を見せる』、と。
それを聞いて、アクエリアスは青ざめました。
「ごめんなさい!ボクが思わず触っちゃったから…!」
けれど、ライブラは首を横に振りました。
「いや、ボクも知らなかった事だし。仕方ないよ。またこの辺りに来るのを気長に待つさ」


+++++


 「…というわけなんです」
アクエリアスは、今日の出来事を神サマに報告しました。
「だから神サマ。幸せをお届けするのは、神サマの仕事じゃないんですよ。安心して下さい」
神サマは、一生懸命報告するアクエリアスを、何も言わずにニコニコしながら見ています。
「ライブラさんには、とても悪い事をしてしまいました」
そうしてちょっとアクエリアスが落ち込んだ所で、ようやく神サマが声を出しました。
「…それで?」
「え?」
「もう、幸せは届いたのかい?」
アクエリアスは少し考えて言います。
「…わかりません。運送屋さんも、わからないって言ってましたし」
そう、彼は言っていました。
『どの幸せが僕からのプレゼントかは多分わからないけどね』と。
すると、神サマは言いました。
「そうか…」
その時の神サマは、何故かとても嬉しそうだったので、アクエリアスも嬉しくなって笑いました。


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 藍色の髪の青年は言います。
「幸せ運送屋ですか…。残念ながら会った事はありませんね」
「君でも会った事が無いのでは、ライブラは、随分大きな機会を逃がしてしまった事になるね」
「まあ、何も気にしていないのと、探しているのとでは大きな差があると思いますが」
そして神サマの方を見た青年は、目を瞬きました。
神サマが、本当に本当に嬉しそうな顔をしているのです。
「…どうかしましたか?」
「…いや…」
首を傾げる青年に、神サマは笑顔で言いました。
「凄い事だよね」
「何がですか?」
「『どの幸せがプレゼントかわからない』という事は、『それだけたくさんの幸せがあの子に訪れる』…という事だよ」
ああ、それで…と青年は呟きます。
青年は知っているのです。
この神サマは、アクエリアスが幸せなら、彼もまた幸せなのだ、と。




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