天井が高い神の間は、声がよく響きます。
「どうして、人間達を野放しにしておくのですか」
大きくはなかった声ですが、そのジェミニの言葉は神サマの耳に、胸に、深く深く入ってきました。
『野放し』
まさにその言葉通り、神サマは人間達が何をしたとしても、それをあるがまま受け入れているだけでした。
ジェミニは尚も続けて言います。
「貴方の命を狙おうなどと…」
唇を噛む様にして言う彼に、神サマは冷静な顔を向けました。
「違う。彼らは私の力が欲しいだけなのだ」
すると、ジェミニは声を少々荒げます。
「貴方を支配しようとしているのですから、同じ事です!」
反響する声が消える頃、神サマは大きく息を吐きました。
「少し落ち着くんだ」
藍色の髪を揺らしながら熱くなるジェミニを穏やかになだめます。
彼は自分の事を心配しているのだとわかっているので、怒鳴られてもこちらから怒ったりするつもりはありません。
「しかし、このままでは本当に…。兄の気持ちもわかります」
同じ藍色の髪を持つ妹は、兄よりも静かに神サマに言いました。
「我々はガーディアン。貴方を守護する事が役目。もし、直接の危害が貴方に加わるような事があれば…」
すっと神サマが右手を上げて彼女を制します。
「君達が思う程、彼らは愚かではないよ。ただ、忘れてしまっただけだ」
「忘れた?」
その意味を問おうとするジェミニを置いて、神サマは神の間を出て行ってしまいました。
――本当は彼らは、世界の全てを知っている。
残されたジェミニは、互いを探るように顔を見合わせます。
「『忘れた』とは?」
「神に対して、自らがどう在るべきかという事を?」
しかし、先程の神サマの様子はそんな感じではありませんでした。
神サマは、自分達の知らない人間の何かを知っていて、彼らを信じているようでした。
+++++
「それを思い出すとどうなるというのか」
「本当に、それを思い出す日が来るのでしょうか」
あの日から長い長い年月が経ちましたが、ジェミニ達の目には、人間が変わっているようには思えませんでした。
「今も尚、我々は貴方の為に生きている」
「けれど今も尚、あの言葉を理解し得ません」
厳重に閉じられた扉の前で、二人が呟きました。
と、その時。
廊下の向こうに二人分の影が見えました。
ジェミニは自嘲気味に微笑んで言います。
「今更とは思うが、彼らに諮るか?」
すると、妹も同じ表情を浮かべます。
「…所詮我々と同じ立場ゆえ、高説は望むべきではないと思いますが」
「手厳しいな」
「兄上程では」
そして微笑み合い、扉の前から立ち去るのでした。
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