「やぁ」
ほんわかした声に振り返ると、そこには角のあるモコモコした帽子を被ったオレンジ色の髪の少年が。
そう、アリエスです。
羊スリッパをパタパタと鳴らしながらゆっくりと歩いてきます。
それを見て、ヴァーゴは少し目をぱちぱちさせました。
「どうかしたかい?」
首を傾げるアリエスにハッとして、ヴァーゴは立ち上がります。
「いえ、貴方が外にいらっしゃるのが珍しかったから」
「……余程ボクは図書館にいるイメージが強いらしいね。外を歩くと皆にそう言われるよ」
肩をすくめるアリエスにくすりと微笑んで、ヴァーゴは空いている椅子を引きました。
「まあ、お掛けになって。今、お茶をお持ちしますわ」
「ありがとう」
よじ登るような座り方。
そして、座った後も『ちょこん』という感じの彼を見て、ヴァーゴはまた微笑んでしまいます。
子供用ではなく、普通のテーブルセットは彼には大きすぎるようで、テーブルとの高低差もちょっと辛そうです。
だからヴァーゴはお客様用のお茶セットと共に、厚みのあるクッションを持ってきました。
そっと差し出されたそれを受け取って、アリエスは感心したような顔をします。
「流石、見事な心遣いだね」
「そう言って頂けると光栄ですわ」
おかげで高さがちょうど良くなったアリエスは、出された紅茶を少しずつ飲みながらニッコリ。
「…何か?」
「うん、ちょっとね」
ヴァーゴが不思議そうな顔をしたままなので、アリエスはこう付け加えました。
「気配りの良い『妹』を持つというのは、こういう気分かなぁと思って」
あまりに予想とかけ離れた言葉に、ヴァーゴは危うくカップを落としそうになりました。
確かに、見た目と違って彼の方がだいぶ年上なのですが…。
「…てっきり、お茶が美味しいとか…そういう事をおっしゃるのかと思いましたわ」
力が抜けたという風なヴァーゴに、アリエスはきょとんとした顔を向けました。
「勿論、とても美味しいけど。ボク、おかしな事を言ったかな」
テーブルの真ん中に置かれたお菓子を取るのに四苦八苦しているような彼に、まさかそんな事を言われるなんて。
――…何とも可愛らしいお兄様ですこと…。
そっとアリエスの方へお皿を寄せながら、彼に気付かれないようにクスクスと笑ってしまうヴァーゴなのでした。
+++++
「ところで」
お茶もお菓子も平らげてホッと一息ついた後アリエスが切り出します。
「君は彼らの動きに気が付いているかい?」
ヴァーゴは少し表情を硬くしながら答えます。
「……ええ、多少は」
それを聞いたアリエスは少し考えた後、ヴァーゴの目を真っ直ぐに見ました。
「君は君の考えのまま突き進むんだ。決して、誰にも惑わされるな」
ヴァーゴが何と言おうか悩んでいるうちに、アリエスは椅子から下ります。
「ボクはもう、決めているよ。でも君が迷うといけないから、どうするのかは言わない」
そのまま行ってしまうアリエスの背中を見送りながら、ヴァーゴの心の中に様々な思いが渦巻くのでした。
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