どんっ
「きゃあっ!」
「うわ!ごめんなさい!」
本を読みながら歩いていたライブラは、本棚の陰から出てきた誰かに気付かずにぶつかってしまいました。
「こっちこそごめんね。ボーっとしてたかも」
前で、照れ笑いを浮かべていたのはアクエリアスでした。
首を傾げると、髪飾りがシャラシャラと鳴ります。
ココはアリエスの図書館。
創られてからしばらく、ライブラは毎日通い詰めています。
「勉強熱心ね」
ライブラの手にある本を見て、アクエリアスが言いました。
「ええ、たくさんの事を知るのはとても楽しいですから。アクエリアスさんも何か本をお探しですか?」
ライブラがそう言うと、アクエリアスは首を横に振ります。
「本…じゃなくて人探しかな」
「人?」
「ええ、ココにはいないみたい。やっぱり、最初に思いついた場所に行ってみるべきだったわ」
「そういう時の勘って、意外に当たる事が多いですよね」
「そうね」
アクエリアスはクスリと笑んで、今度はライブラの本の中を覗き込みます。
「何の本を読んでいるの?」
「『天至門(てんしもん)』ですね」
天界へ至る門、略して天至門。
人間が書いた天界へ行く方法の本です。
下界ではとても有名は本らしいのですが。
「私達は天界にいるのに、そんな本を読んで面白いものなの?」
「他の皆さんにはつまらないかもしれませんが…一応ボクは、天界と下界についての研究もしてますし」
「ああ、なるほどね」
「下界の人々が天界をどう思っているのか、よくわかりますよ。ただ…」
「ただ?」
「ボクは下界の事をよく知らないから、読んでてわからない事もありますけど。…下界にあるたくさんの門の事とか…」
ふ〜ん…と呟きながら、アクエリアスが言います。
「君は、あの門の先を、覗いた事がある?」
ライブラは残念そうな表情を浮かべました。
「いえ、ボクはまだ下界へ行く事はおろか、あの門に近付く事を神サマに禁じられてますから」
するとアクエリアスは眉をひそめました。
「自分の事棚に上げてそれってどうなのかしら。じゃあ、階段の事は知らないわね?」
「階段?」
「そう。あの門の先には、下界へ行く為の階段があるの」
「そういえばこの本にも、『階段を上って天界に行く』ってありました」
「でも考えてみて。天界と下界の距離は物凄い事になってるわよね。それが上りも下りも階段よ?」
「…神サマはよく下界に行ってるみたいですけど…大変ですね」
「ただ階段って考えるとそうなんだけどね、実は、階段は途中で途切れちゃってるの」
ライブラは驚きます。
「え、それじゃどうするんですか?」
ふふ〜んと得意げな顔で、アクエリアスは人差し指をビッと立てました。
「その途切れた所に不思議な空間があってね、気付くと下界にいるのよ」
ああ、下界から来た時には気付くと天界って事よ、と付け加えます。
「下界からは天界のあの門一つにしか続いてないけど、こちらからは下界の色んな所に行けるわ」
それを聞いて、ライブラはああ!と声を上げます。
「それが、この本に書いてある『たくさんの門』なんですね!」
興奮して前に突き出される本を避けながら、アクエリアスは頷きました。
「私はその本を読んだ事がないけど、多分そういう事だと思うわ」
『たくさんの門がある。
けれど普段は我々の目に映らない。
それに触れる事ができた時、我々は天界に行く事ができる。』
天界からは任意で下界のあらゆる所にある好きな門を開けるけれど、普段それは人間には見えません。
その門が見えた時、そして開く事ができた時、人間は初めて天界へ来る事ができるというわけです。
「…門を見つけた時が、彼らがココに攻め入ってくる時なのでしょうね」
ふと真面目な顔になるアクエリアスに、ライブラはニッコリと微笑みました。
「いつか、解り合える時が来ますよ、きっと」
+++++
――それにしても。
ライブラがずっと門の事を研究していても、どうしてもわからない事がありました。
――どうしてこちらが門を開いていない時に、下界の門が出現する事があるんだろう…?
どの資料にも、二つの門は連動していて天界の門が開かない限り下界に門は出現しないと書いてあります。
――でも、こちらの門が開いていない時に人間が攻めて来た事がある…いや、その方が多いんだ。
雄々しき神がよく下界に下りていたといっても、流石に彼も門を開けたままにはしていません。
神サマなら、天界側の門が閉まっていても下界側の門を開く事が出来るからです。
――下界に神サマと同じ力を持つ人間が…?でも、もしそうならいつ攻めてきてもおかしくないじゃないか。
疑問は深まるばかり。
またしばらく、アリエスの図書館に入り浸る日が続きそうです。
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