たったったったった…。
だんだん近付いてくる足音。
けれど、いつも聞こえるモノよりも遥かに歩幅が小さくて軽い音です。
自分に向かって来ているのかどうかを確認をしようとしたら、声を掛けられました。
「あの、スコーピオさん」
あまり耳慣れない声です。
振り返ると、自分の顔よりずっと下の方から見上げる少年がいました。
「………アクエリアス…?」
スコーピオは自分の所へ来るのはタウラスくらいだろうと思っていたので、少々驚いてしまいました。
本人としてはそんなつもりは無いのですが、どうやら自分の口調は冷たいらしい事。
そして、元々自分が誰かと話したりするのが好きではない事。
そういう事が重なって、他の、特にタウラスより下位のガーディアンは近付く事すら殆ど無かったのですが。
「何の用だ?」
カプリコーンなどすぐに逃げ出してしまいそうな口調と表情でしたが、アクエリアスは何とも無いようです。
「ちょっとお時間良いですか。お願いがあるんですけど」
…何とも無いどころか、頼み事まであるようです。
「…だから、何の用だと訊いている」
「あのですね、ライブラさんがアリエスさんから借りた資料が、風で木の上に飛んでしまったんです」
そう言って、アクエリアスはちょっと離れた所にある木を指差しました。
「でも、ボクやライブラさんじゃ届かないし、レオさんが登ってみたんですけど枝が細くて危ないんです」
枝が折れてしまう仕草をしながら続けます。
「ボクの魔法じゃ資料が濡れちゃうし、揺らしても落ちてこないし、何かを投げて資料が破れちゃうと困るし…」
「…」
「そういうわけで、背が高い人に取って貰おうという事になったんです。お願いできませんか?」
「…」
黙ったまま、スコーピオは歩き出しました。
すると、アクエリアスはニッコリ笑うのです。
「ありがとうございます!」
スコーピオは歩きながらまじまじとアクエリアスを見ました。
「…何も言ってないのに、どうして協力すると思った?」
アクエリアスはきょとんとした顔で答えます。
「え?だってすぐに木の方に向かってくれたじゃないですか」
「…」


+++++


二人が木に辿り着くと、ライブラとレオがビックリした顔をしています。
まさかスコーピオを連れてくるとは思ってなかったからです。
しかしそんな事には構わず、アクエリアスは上を指差します。
「アレです。アレ」
なるほど、確かに枝の先の葉っぱの中に白い物が見えます。
…が。
「…俺でも届かないな」
とりあえず手を伸ばしてみましたが、微妙に届きません。
すると、小さくマントを引かれました。
そちらを見ると同時に、アクエリアスが両手を上げます。
「ボクとスコーピオさんの背を足せば大丈夫です」
「……?」
「抱っこして持ち上げて下さい」
あまりに明るい笑顔で自然に言われたので、スコーピオは特に疑問も持たずに頷いてしまいました。
ひょい。
がさがさ。
資料は、あっさりとアクエリアスの手の中に。
「取れましたー」
地面におりて、それをライブラに渡します。
「スコーピオさん、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるアクエリアスとライブラでしたが、レオが変な顔でこちらを見て言いました。
「…お前…思ってたのと違う感じだな」
スコーピオはどう応えたら良いのかわからなくて、くるりと背を向けてそこから離れてしまうのでした。


+++++


「…見たか?」
「……確かに見たわ」
近くを通り掛かったタウラスと、いつものようにライブラに突撃しようとしていたキャンサーが顔を見合わせます。
「あのスコーピオがアクエリアスを抱っこしたわ!」
「怒るとか嫌がるとかそういうのも一切無くな。まさかアイツがねぇ」
「いつもだったらタウラスの役目よね、アレ。良いトコ完全に持っていかれちゃったんじゃないの?」
「ま、たまには良いんじゃないか?」
「わからないわよ〜?この出来事がきっかけで、子供達の心はスコーピオに!…みたいな」
「一度や二度の何かで全てを持っていかれる程度の存在なのか俺は」
「違うと良いわね」
「…逆に、アイツの中で何かが変わると良いけどな」
「……そうね」
通り過ぎるスコーピオから隠れるように木の陰に身を潜ませながら、二人は苦笑するのでした。



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