「あー…暇だ暇だ暇だ」
ブツブツと文句を言いながら、目の前の本のページを読まないうちにパラパラとめくるサジタリウス。
「ったく、キャンサーの野郎…なーにが『そんなに暇ならたまには図書館で本でも読んだらどうだ?』だっつーの」
ついにはパタンと閉じてしまいます。
「オイラがこんなの読んで暇が潰せるようなヤツなら毎日そうしてるだろ」
最初から自分には不向きな時間の使い方とはわかっていつつも、とりあえず実行してみるほどに暇だったようです。
「『神サマを護るのが使命』とか言ったってよ、下のヤツらがそうそうこっちにくるわけじゃねぇしな…」
図書館へ来てから何度目かもうわからなくなってしまった欠伸をして、ついには机に突っ伏しました。
そこへ、てくてくとやってくる図書館の主。
アリエスです。
「おや、館内が騒がしいと思ったら君が来てたのかい。意外だな、君が本に興味があるなんて」
「ねぇよ」
すかさず飛んできた反論に苦笑しながら、アリエスはサジタリウスの隣に座りました。
「じゃあ、どうしてココへ来たんだい?」
「オイラがあんまり暇そうにしてるから、キャンサーがココへ行ってみろって。でもつまんねぇ」
「なるほど」
頷きながら自分が持ってきた本を読み始めるアリエスを、横からつつきながらサジタリウスがまたブツブツ。
「創られてからそんなに経ってないオイラがこんなに暇してるんだぜ?もっと先に創られたヤツってどうなの?」
第十二位のサジタリウスと第三位のアリエスでは、創られてから経っている時間が随分違うはずです。
他のガーディアン達は普段一体何をしているのだろうと、サジタリウスはよく疑問に思っていました。
「うーん、ボクはこうして本を読むか寝てるかしてるから暇だと思った事が無いからね」
……訊く相手を間違えたようです。
アリエスの手元にある分厚くて小さな文字がビッシリの本を見て、サジタリウスはうんざりした顔。
「そんな本、固すぎて枕の役にも立ちゃしねぇ……」
「それなら、他のガーディアンと修行をするというのはどうだい?ライブラやカプリコーンならきっと相手になってくれるよ」
読んでるとは思えない速さでページをめくりながらアリエスがそう言いましたが、サジタリウスが今度は悔しそうな顔をします。
「……強過ぎるんだよ」
「君が?」
「嫌味か!アイツらがだよ!気付いたら目の前にいやがる」
アリエスはすぐに納得した様子。
「…懐を取られると負け、か。君は中距離メインだからね」
実戦経験と元々の能力差もあるし…とポツリと付け加えながら、アリエスは本を閉じました。
とても分厚い本だったのに、もう読み終わってしまったようです。
「まあ、とりあえず弓の練習をたくさんする事かな」
サジタリウスは口をとがらせました。
「止まってる的なら絶対に外さねぇよ」
新しい本を取りながら、アリエスはクスリと笑います。
「基本的に、ボク達が戦う相手は動いてるんじゃないのかな。彼ら程のスピードは無いにせよ」
近距離攻撃中心に創り出されたのライブラやカプリコーンは、動きに全く無駄がありません。
元々中距離、しかも援護中心として創られたサジタリウスが一対一でかなう相手ではないのです。
「でも、下界ならともかく、ココに動いてる的なんてあるのかよ」
不満そうな表情をするサジタリウス。
確かにガーディアンと神サマ以外は基本的に植物しかない天界で、動いている的を探すのは難しいかもしれません。
するとアリエスは、とんでもない事を言い出します。
「そういえばそうだね。よし、じゃあボクを狙うと良い」
ガターンッと、二人の後ろにある本棚の向こうで椅子がひっくり返る音。
その後しばらくゴトゴトと直してる音が聞こえ、続いてレオが姿を現しました。
「ちょっと、黙って聞いてりゃ何スかその結論は」
「何だ尻尾。立ち聞きかよ」
「確かに生えてるがその呼び方はどうよ…って違う。こんな静かなトコでアレだけ喋ってりゃ嫌でも聞こえるっての」
とりあえずサジタリウスにツッコミを入れながら、レオは二人の間に立ちます。
「アリエスさん、そりゃまずいッスよ。ココは一つ、俺に任せて下さい」


+++++


「じゃじゃーん!」
次の日、レオはサジタリウスの所に直径30cm程の球体を持ってきました。
「…何だこりゃ」
それを地面に置きながら、レオはニヤリとします。
「ココ開けるとボタンがあるから押してみな」
言われるままに押してみると、その球体がブルブル震えた後に前後左右に動き出しました。
「うわ、気持ち悪!」
「気持ち悪いとは失礼だな!せっかく作ってやったのによ!」
逃げる球体を捕まえ、再びスイッチを押して止めながらレオがムッとします。
「コレ使えば、動く的があるだろ」
「うん、アリエスより良さそうだ」
「で、ココをこうやって回せば移動距離が変わるから、慣れてきたら増やせよ」
「なるほどな。うん、感謝するぜ、尻尾」
「…素直に感謝するのは良いんだけどな、その呼び方はやめろって」


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「……アレ?」
いつものように弓の練習をしていると、突然球体が動かなくなってしまいました。
「流石に壊れたかな」
とても長い間使っていたので、仕方がないといえばその通りなのですが。
「でも、今のレオに直せっていうのは無理だよな」
――同じ尻尾が生えてても、前のレオとは大違いだ。
しばらく悩んだ後、サジタリウスは図書館へ向かいました。
そして扉を開けるなりこう言うのです。
「なあ、アリエス。やっぱり的になってくれよ」



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