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「あんな奴、死んでしまえば良いのに」
ほらまた。
決して口にしてはいけない言葉。
キミ達にも、色々とあるのだろうが。
『本当に、それで良いの?』
突然現れた僕にキミは驚く。
「…誰…!?」
『ん〜…神サマの使い?』
「訊いてるのはこっちだよ!」
何だ。
案外落ち着いてるもんだな。
人間は、こんな風に宙に浮いてる人型の生命体を見たら、もっともっと驚くと思っていたのに。
…残念。
むしろ、人型をしていない方が良かったのだろうか。
「…で?神サマの使いとやらが俺に何の用だよ」
『あれ?信じてくれるんだ?』
「お前…自分でそう言ったんだろうが!そんな風に浮いてるし…」
『うーん、人間は飛べないもんね。不便不便』
「そんな事はどうでも良いから。一体何の用なんだよ」
おやおや。
見た目の割に強気なんだなぁ。
こっちの調子が狂うよ。
それとも、怖い気持ちを抑えるために必死なのかな。
「何笑ってるんだよ」
『いやいや、なんでもないよ』
後者の方が正しい…という処かな。
『今キミは「死んでしまえば良い」と言ったよね』
「…ああ」
『誰の事?友達?』
「そうだよ」
『…本当に良いの?』
「…お前に関係ないだろう」
『別に、理由なんて訊いたりしないよ。ただ、本当にその友達が死んじゃって良いの?』
「良いよ。だってアイツ…!」
『ストップ。理由なんて訊かないって言っただろう?』
さて、この子は何処までのってくるだろうか。
『キミが死んじゃって良いって言うなら、僕が殺してあげるよ』
「…!?」
『キミの手を汚す必要は無い。全ての責任は僕が持とう』
「か、神サマの使いがそんなことして良いのか!?」
『キミは、選ばれたんだ』
「選ばれ…た?」
『キミが次の神サマ候補。だから僕はキミが望む事を叶えるべくココに来た』
「俺が、神サマ候補?」
『そう。神サマになったら、今よりもっと自由がなくなるからね。今のうちに色々やっておけって事』
「…」
『その為に僕の事を最大限に利用してくれて構わないんだ。だから』
僕は、ニッコリ笑って言ってやった。
『僕が、その友達を殺してあげるよ』
「それじゃ、お願いしようかな」
あら〜…。
案外あっさりときたね。
まさかこんなに簡単に返事が返ってくるとは思ってもみなかった。
…別に良いけど。
僕は僕の仕事をするだけだし。
『良し。それじゃ僕の仕事をよく見ててね』
「どうやって?」
『コレで』
「ああ、この鏡にお前が映る訳か」
『そういうこと。それじゃ、また後で』
『やあ』
「…!?な、何だよアンタ!?」
『ん〜、名乗るほどの者でもないんだけど、事情があってね』
「事情?」
『キミを殺さなくちゃいけないんだ』
「!!」
大体人間なんてモノはさ、とっても簡単なんだよね。
ほら、胸でドクドク言ってるアレ。
アレを壊しちゃえば動かなくなっちゃうんだから。
ただ、下手をすると僕も汚れちゃうんだよね。
あ、やっちゃった。
中で壊すの、苦手なんだよなぁ…。
…まあコレでとりあえず任務完了ってトコ?
僕の本当の目的は、ココで終わりにはならないんだけど。
『どうだった?鏡の中の僕は、ちゃんとキミの友達を殺していただろう?』
明るく言う僕に反して、目の前の少年はがくがく震えていた。
鏡には、真っ赤な友達。
ぴくりとも動かず、道端に倒れて。
『まあ、この中だけじゃなくて、ホントに殺してきたんだけど』
「…」
『他には?神サマになる前に、何か僕に頼んでおきたい事は?』
「死ん…じゃったの?」
『え?』
「本当に死んじゃったのか?」
『そりゃそうだよ。それがキミの望みだったじゃないか』
「い、生き返らせることは?」
『無理だよ〜。だって「死んだ」んだよ?もう二度と還る事は無い』
「俺…お前の言ってる事冗談だと思って…」
『冗談?どうして?キミ、あの子の事を殺して欲しかったんでしょ?』
「でも…でもそれは…」
あーあ、黙っちゃった。
『わかる?「死」なんてホントはそう簡単に思ったり口にしたりしてはいけないことなんだよ?』
「そんな事…」
『「わかってる」「わかってるはずだった」そんな事じゃすまない。もうあの子は還ってこない』
「お、俺が望む事を叶えてくれるんだろう?どうしても生き返らせる事は無理なのか?」
『できない事も無いけど…。殺す時ほど簡単じゃないからな〜』
大抵そうだよね。
壊すのは簡単だけど、直すのって難しいよね。
「『簡単じゃない』って事は…できるんだな?」
『うん。アレだけ脅しておいてなんだけど、できない事は無いよ』
「だったら!」
『「命」が還ってくる為には、「命」が必要なわけだよ』
「…?」
『でも、生き返らせる為には、単なる「命」じゃ無理なわけ』
「なんとなく…分かるけど…」
『つまり、「神サマ候補」である「キミの命」くらいの価値が無いとね』
「!」
『どうする?キミのせいで死んでしまったあの子の為に、キミの命を捧げる?それとも…』
「…分かった」
…この子…あっさりしてるなぁ…。
良いのかな。
自分の命を投げ出す事が、どれほどとんでもない事なのか分かってるのかな。
…別に良いけど。
『じゃ、目を閉じて。すぐに終わらせてあげるよ』
壊すのは、本当に簡単。
『菘(すずな)…お前はまた子供を騙したのか』
『へへ〜。だって魂が必要なわけで』
『…格別に成績が悪いからな、お前は』
『吏希(りき)は相変わらず厳しい事言うね。でも良いよ。コレで魂は2つ入ったし』
『あまり変な事はしすぎない方が良いぞ』
『うん。分かってるよ』
気が昂ぶってるとさ、思わず言っちゃう事ってあるよね。
後で考えてみるとさ、何であんな事言っちゃったんだろうって思うんだ。
普通の事なら良いけど、それに命が関わってたら取り返しがつかないよね。
下手な事言わないように、気をつけてないと。
なんとなく、自分の命は特別だって言われると嬉しいよね。
「キミの命は価値があるんだ」なんて。
そこに付け込まれちゃうことって、結構あるんだよね。
でも、魂を扱ってる僕らから言わせてもらえば、皆一緒。
『特別な命』なんてモノは無いんだよ。
『さて、次の仕事にかかるかな〜』
この世の中に、神の使いなんていないよ。
いるとすれば、キミ達の魂が欲しい僕らの仕業だ。
即ち偽者。
来るべき未来。
キミ達はどれくらい、僕達の誘惑にかかるのだろう。
そして、どれくらい誘惑から逃れられるのだろう。
『そういえば菘、魔王サマが呼んでいたぞ』
『ええ〜!?もしかして魂が少ないって怒られるのかなぁ〜。吏希、一緒に行ってよ〜』
『冗談じゃない』
『そんなぁ〜…。ね?今回だけだから』
『…絶対だぞ』
『やった〜!!』
ねぇ、誰かを殺したいと思った事、ある?
誰かに死んで欲しいと思った事、ある?
その人が本当にいなくなってしまった時の事、考える?
どうして無くなってからじゃないと気付けないんだろう。
どうして壊れてからじゃないと分からないんだろう。
『何笑ってるんだ?』
『ん?「人間」って不思議だな〜って思って』
『…何がだ?』
『簡単に壊れちゃうけど、結構複雑なんだよ』
吏希はよく分からないって感じの顔をした。
それを見て、僕はまた笑った。
−了−
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