バシャバシャッ
流れの止まった下水道の中に響く足音。
全身をプロテクターで包んだ16歳くらいの少年が1人、息を切らしながら懸命に走る。
お世辞にも綺麗とは言えない水が足元を濡らすが、そんなことには構っていられない。
何故なら。
ヴィ、ヴィ、ウィーン…
彼の後ろから、円筒形の形をしたロボットが追いかけてきている。
どういう原理なのか地面から少し浮いていて、移動速度が非常に速い。
中心より少し上の辺りに入った切れ込みの中に、赤い光。
時折点滅するそれは、人間で言う所の目に当たるのだろう。
確実に少年を捉え、離さない。
――トロくさい手伝いロボットだったくせに…。加速装置(ブースター)でもついてんのか!?
人間の足では、どうあっても逃げ切れないスピード。
少年は諦めて立ち止まり、振り返り様に右手に装備されたレーザーガンについたダイヤルをひねる。
合わせる位置は…『Mode Extreme Shot』
「…このっ!!」
ビビッ
短く、けれども明るく激しく放たれたレーザーは、ロボットの体を撃ち抜いた。
ロボットは、大きな音を立てて爆発し、跡形も無くなる。
「……まったく……」
ぜーぜー言いながらも、少年はまた走り出した。

「お帰り、レイク!」
扉を開けると、広い部屋があり、そこから明るい声が耳に届く。
少年と少女が1人ずつ。
歳は、2人とも先ほどの少年――レイクと同じくらい。
「大丈夫だった?怪我は無い?」
少女が心配そうにレイクの顔を覗く。
彼女の首には、人間の腕の太さくらいのカプセルのような機械がついていた。
小さく鼓動のような音を繰り返すそれは、どうやら生命維持装置らしい。
「平気。ダットに見つかったけど、ぶっ壊してきた」
そう言ったレイクに呆れ顔を見せたのは、奥にいた少年。
けれど、ふと何か思い出したようにこちらに近付いてきた。
レイクからレーザーガンを奪い取って何やらゴソゴソといじる。
「ぶっ壊したってまさか…エネルギーは?」
「もう危ないな」
その言葉通り、レーザーガンのエネルギー残量は限りなく0に近い。
少年はがっくりと肩を落とす。
「あー、頼むから節約してくれよー。コレ、補給(チャージ)すんの大変なんだからな?」
「仕方ないだろ!アイツらなんか知んねぇけど、妙に速いんだよ!逃げ切れねぇの!」
「だからってダット如きに、エクストリームショット(エネルギー大量放出モード)を使う必要が何処にある!?」
口論をはじめる2人を少女がなだめる。
「2人とも落ち着いてよ。レイクが無事だったんだからそれでいいじゃない」
「でもな、イルナ、これから先もレーザーには大変お世話になるわけだ」
「はいはい、わかってますよ。じゃあケンはレイクが捕まっちゃった方が良かった?」
「そうは言ってないだろ?あー…集める方の身にもなってくれよなぁ…」
ケンはブツブツ言いながら仰向きに寝転がった。
「……悪かったよ…」
多少口を尖らせながら、レイクはとりあえず謝る。
「いーや、わかるよ、お前の言い分も。俺こそ悪かったな」
ケンも素直に自分の非を認めた。
「俺だってこうじゃなきゃお前と一緒に外へ行くんだがな…」
小さくそう言いながら、ケンは自分の足を見る。
機械に包まれた足、走る事はできない。
「で?どうだったんだよ」
「あ?ああ…」
促されて今度はレイクが口を開く。
「駄目だ、誰もいない」
それは、重く暗い言葉。
「そうか…」
イルナはそんな2人を励まそうと、精一杯明るく振舞った。
「大丈夫だよ。皆平気。私たちみたいに、どこかに隠れてるんだよ、ね?」
そんなイルナを微苦笑しながら見て、レイクはプロテクターを外した。


今この世界は、機械が支配している。
少し前まで、人間が我が物顔で蔓延っていたこの世界を。
事の起こりは20年程前。
発達する文明、増えていく機械。
人間がやっていた仕事をロボットが全て行う時代。
そんな中、人間たちはついに人間型のロボットを作ることに成功した。
そのロボットたちは多少の人工知能を入れられ、人々の命令に従順に従い、決して逆らう事など無かった。
見た目も人間と相違ないし、完全な反論はしないもののある程度の会話もできるということで愛着も湧いた。
だから、世の中にはたくさんの人間型ロボットが溢れ返っていった。
そう、人間よりも多く。
その事態を重く見た人間たちは、必要最小限のロボット以外、つまり最新型のロボット以外を別の星へと廃棄してしまった。
無人の星、エネルギーの無いところで彼らは朽ちていく。
そう思っていた。
けれど、下手に組み込まれた人工知能のおかげで、彼らは朽ち果てることなく生き延びた。
エネルギーを作る術を生み出した彼らは、永遠の命を得た。
そこで思うことはただ一つ。
自分たちを作り出し、いいように労働させ、都合が悪くなったからと言って捨ててしまった人間への復讐。


『人の命とは、あまりにも脆い』
誰かが呟いた。
『何故このような奴らの命に従い、何よりも…何故そんな者どもに捨てられてしまったのか』
ボンヤリと、辺りが明るくなる。
照らし出されたのはたくさんのモニター。
そして、手などはまさに機械だけれど、ふと見ると、普通の人間と相違ない男が1人。
『そう、思うだろう?憎め、奴らを。その作られた心で…』


肩で息をしながら、ケンが飛び込んできた。
「や、やっと戻って…」
倒れかけるケンを、イルナが驚きながら支える。
「大丈夫?ケン、ケンってば」
レイクも心配そうにケンを見る。
しばらく深呼吸をした後、ケンは笑った。
「もう平気。ほら、レイク、レーザー貸せよ」
「もしかして、エネルギー?」
「そうだよ。やっぱり無いと困るだろ?」
レイクからレーザーガンを渡されると、ケンはガチャガチャと丸い物をはめ込んだ。
レイクは、レーザーガンを撃つ事はできるが、メンテと補給ができない。
つまり、壊れたら直せないし、使ったら使いっぱなし。
それをサポートしているのがケンなのだ。
ケンは、昔から機械をいじるのが大好きで、こういうことは大得意だった。
事故で無くしてしまった足の代わりの義足のメンテも、イルナの装置のメンテもやる。
「よし、コレで」
「ありがとな」
「もう無茶すんな」
そんなケンを見ながら、イルナが少し怪訝な顔をしながら訊いた。
「…ケンは、何処からエネルギーを取ってきてるの?」
ケンはイルナの方を見て、ちょっと悩みながら言う。
「何処って言ったらわかる?えーと、5番街の工場跡って言うとわかるか?」
その言葉に、レイクもイルナも驚く。
「5番街!?」
「そんな遠い所まで行ってるの!?」
その2人の驚きように、むしろケンの方が驚いた。
そして、はたりと気付く。
「ちょっと待てレイク。お前、ホントに知らなかったのか!?」
「そんなこと知るか!まさかあんなトコまで行ってるなんて…」
「だから!エネルギー補給は大変だって言ってるだろ!?」
ケンは指をレイクの顔に突きつけて続ける。
「使えるエネルギーがあるのがもうあそこくらいなもんなんだ。アレ以上遠くは俺の足じゃ無理だしな」
因みに、レイクたちがいるのは2番街。
それぞれの街と街は2km程離れている。
つまり、5番街までは6km、往復で12km離れているわけだ。
いつロボットたちに見つかるかわからないような状況の中、その距離はあまりに遠い。
まして、走る事のできないケンには。
「わかったら節約してくれ。ダットたちに見つかるな。見つかってもなるべく自力で逃げろ」
淡々と言った後、思い出したようにケンが言う。
「ただし、本当にヤバそうなら、ヤバくなる前に使え。な」
レイクは素直に頷いた。
「場所さえ教えてくれれば、俺が自分で取りに行くよ」
その言葉に、ふっと笑顔を見せながらケンが応える。
「バーカ。メンテもできないような機械音痴には、とてもじゃないが操作できねぇよ」
「何だと!?」
「文句があるなら自分でやってみるか?メンテ…」
そう言ってレーザーガンを指差され、レイクがグッと詰まる。
そんな2人の様子を、イルナが笑いながら見ていた。
生命維持装置が、少し大きな音を立てる。
「イルナ?調子悪いのか?今、ついでに見るけど?」
それに気付いたケンが声を掛けるが、イルナは首を横に振った。
「ううん、平気」
無理はするなよ、と言ってケンは部屋の奥に行った。


「えーと、確か5番街の工場ってこの辺だったよな…」
誰もいないことを確認しながら、レイクは前に進んだ。
辺りは機械たちの襲撃を受けて壊滅状態。
その中で、工場の壁だけがかろうじて残っていた。
「ホントにこんなトコまで来てたのかよ…」
その昔、レイクとケンはよくこの辺りに遊びに来たりもした。
ただし、歩きではなく親が運転していた車で。
1回レーザーガンを使っただけでココに来るのでは、確かにたまらない。
ケンが思わず愚痴るのもよくわかった。
「この工場の…」
中の一体何処で補給をするのか、と壁の向こうを覗くと、何もなかった。
「コレは…!?」
床に所々焦げた後が残っている。
一部の金属が、まだ赤く熱を帯びているのがわかる。
「…やられたな…」
おそらく、工場の一部が生きている事をロボットたちが見つけ、破壊してしまったのだろう。
自分たちはエネルギーの創造ができるのだから、こんな所は必要ない。
残しておけば、レイク達のような人間の生き残りに使われてしまうだけだ。
「ご丁寧な事で…」
舌打ちしながら、壁を叩く。
他の補給場所を見つけなければ。
そう思って6番街の方へ足を向けたところで、パラパラと雨が降り出した。
「…ついてねぇなぁ…」
雨は見通しが悪くなる。
音もよく聞こえない。
そんなとき、ダット等に見つかったら非常に面倒だ。
レイクはしぶしぶ帰る事にした。

「聞いてくれよー!!」
扉を開けるなり、レイクは工場が壊れていた事を話そうと大きな声を出した。
けれど、まったく反応がなかった。
「…あれ?」
その中が薄暗いのは、いつもの事だけれど。
「イルナ?ケン?」
どんな時も明るく出迎えた少女の声も、文句を言いながらも色々なメンテをしていた少年の声も無い。
不審に思ったレイクは、部屋の奥へと足を運ぶ。
すると、誰かが倒れていた。
短い髪。
華奢な体に似合わない、重いその足の持ち主は。
「ケン!」
駆け寄って抱き起こすと、ゆっくりとケンの目が開く。
「ケン、大丈夫か!?一体どうしたんだ…。それにイルナは!?」
けれど、その質問には答えず、ケンは小さな声で呟いた。
「気を…けろ…。イルナ……維持装置………機……」
そこで、ケンの言葉は途絶えた。
ぱたりと落ちた手が、少しずつ冷たくなる。
「ケン!おい、ケン!!」
返事は勿論無い。
「ケン!!」
7歳の頃に出会って、ずっと一緒にいて。
不満を言い合って、喧嘩もして。
でも、力を合わせて乗り切った事、たくさん笑いあった事。
これからも、そんな友人であると思っていた事…。
「―――……っ!」
たくさんの事が頭をよぎって、涙が出てきた。
彼の最期の言葉。
所々聞こえなかったが、どういうことだろう。
イルナの生命維持装置が、ロボットたちに外されてしまったというのだろうか。
彼女は、アレがないと生きていけない。
苦しみながら死んでいくのを、嬉々として見ているのかもしれない。
――アイツだって…昔からの仲間だ…。
助けに行かなければ。
ケンを、普段寝ていたベッド代わりの台に運び、いつものように寝かせてやった。
「ケン、イルナの事は任せろ。アイツを助けて必ずココへ戻ってくる」
レイクはそう言って涙を拭い、レーザーガンを握り締めながら部屋を出た。
――絶対に、許すものか…!


もう、雨なんて関係ない。
イルナが何処へ連れて行かれてしまったかなんて知らない。
けれど、きっと人間がいればダットたちが現れるだろう。
それを何とかやり過ごして、戻って行く所をつければ良い。
そう、レイクは思っていた。
ところが。
『ようやく外へ出てきたか』
突然の声に驚いて、レイクが振り返るとそこには男が1人立っていた。
黒いマントで全身を覆っていてよくわからないが、レイクよりも少々年齢が上なようだ。
まったく見たことの無い男だった。
それなのに、『ようやく』とは?
「何だアンタ…。アンタも生き残りか?」
少し不審を感じつつレイクがそう言うと、男は笑い出した。
『生き残り?とんでもない。私は…』
男がマントをふわりと上げると、機械の体。
「お前…!」
思わずレイクは身構える。
――人間じゃない…!
『安心しろ。私はお前に危害を加えるつもりは無い。…そう、私はな』
そう言いながら男が見た先を追うと、そこにはイルナがいた。
レイクは目を疑う。
「イルナ!?お前こんな所で何をやってるんだ!?」
しかし返事は無い。
生命維持装置も、取られてしまった様子は無い。
いつも通りのイルナ。
それなのに。
「何…やってるんだ……?」
何故か彼女は、レイクにレーザーガンの銃口を向けていた。
それを見ながら男は声を上げて笑った。
『まだわからないのか?』
「どういうことだ!?」
イルナから目を逸らさないようにしながら、レイクは男を問いただす。
「イルナに何をした!?」
しかし男は首を振りながら笑う。
『何もしていない』
「嘘だ!!」
そうでなければ、イルナが自分に銃口を向けるなんてことがあるはずが無い。
レイクはそう思っていた。
けれど次の瞬間、男の口から衝撃の言葉が紡がれた。
『彼女は元々私の仲間だ』
レイクは言葉を失った。
思わず、男の方を見る。
「…馬鹿な…!」
『嘘をついてどうする。本当の事だ、なあイルナ?』
楽しそうに男が言うと、イルナは静かに頷いた。
「…ええ、Dr.エルカイト……」
「そんな…そんなはず…」
レイクは首を横に振りながら、目一杯否定した。
今までずっと一緒にいた、あのイルナがロボットたちの仲間なんて。
「嘘だろう…イルナ…」
すがるように言ったレイクの言葉に、イルナは冷たく応えた。
「残念だけど、私は人間ではないの…」
「昔から、ずっと一緒にいたのに?3人で俺たちは…」
そんなレイクの言葉を聞いて、男――Dr.エルカイトはくすくすと笑った。
『教えてやろう少年。どうせもうすぐ終わる命だ』

我々は『復讐』と称してこの世界を破滅に追いやった。
破壊、炎上、人々を恐怖に陥れた。
けれど、運良く生き延びた者たちがいた。
その者たちは、何とか生きているエネルギーを集め、我々に小さな反抗を始めた。
別にそれが恐ろしかったなどと、そんなことはありえない。
圧倒的に我々の方が力があるのだから。
しかし、気持ちの良いものでもなく、何よりも鬱陶しかった。
だから、人間をこの世界から完全に殲滅する為に、我々は最後の詰めに入った。
核を破壊されればすぐに壊れてしまう我々は、レーザーガンを持った人間の前に出るわけには行かない。
だからダットを利用し、一体彼らが何処からエネルギーを入手しているのかを調べた。
だが…、ダットが映すモニターに、エネルギーが生きていそうな場所は全く無かった。
それならば仕方あるまい。
直接人間から問うしか無いだろう、と。
私はイルナを偶然発見した生き残りのお前たちの所へ送った。
イルナはお前たちの記憶を操作し、まるで昔からの友人のように振る舞い、エネルギーの入手場所を探った。

「そしてこの前ケンが…、5番街でエネルギー補給をしているというのを聞いて…」
俯きながら言うレイクに、Dr.エルカイトは静かに頷く。
『工場の壁には、どうやら電波をカットする何かがあるらしくてな。ダットの通信が入らなかったようだ』
そういえばあの時、イルナの生命維持装置が大きな音を立てた。
ケンの言葉と合わせると、全て納得がいく。
送り込まれたイルナは、あの装置からDr.エルカイトに情報を送っていた。
ケンは、それを伝えたかったに違いない。
レイクは、Dr.エルカイトを睨みつけた。
「どうして!どうして記憶を操作できるなら最初から工場の事を言わせなかった!?」
わざわざ、こんな裏切られた形をとられるなんて許せない。
レイクはそう思った。
ところが、それにはDr.エルカイトも不満があったようだ。
『それは私の命令ではない。イルナのした事だ』
そう言われてレイクは今度、イルナの方を見る。
「そんなに俺たちが憎かったのか…?さっさと場所を聞き出して、殺してしまえば良かっただろう!?」
「私は…」
『そう責める事もあるまい。どうせ、お前は今ココで死ぬ。さあ、イルナ』
イルナは、グッとレーザーガンを握り締めた。
『イルナ!』
そして…。
ビッ
いつか、レイクがダットを破壊した時よりも小さな音を立てて、レーザーが発射された。
それは、確実にレイクの体を貫き、レイクは静かに倒れた。
しばらくの沈黙。
そして、それを破ったのはDr.エルカイトだった。
『……なかなか潔いヤツだな……。命乞いも、いや、避けようともしないとは』
「友人を殺され、友人だと思っていたモノに裏切られ。もう、生きる事に疲れたのでしょう」
『そうか、まあ良い。さあ、コレでこの世界は我々の……』
そう言いながら振り返ったDr.エルカイトは、目を疑った。
『……イルナ?』
先ほどまでレイクに向いていた銃口が、今度は自分に向けられていた。
『何をしているんだ、イルナ』
Dr.エルカイトは、少しひきつった笑いを浮かべた。
「私は、人間が嫌いなの」
『何を言っている?私は…』
「知らないとでも思ってるの?貴方は人間。人間型ロボットの生みの親、エルカイト」
イルナは、一歩足を前に踏み出した。
「手や足を機械にする事で、私たちと同じになれると思った?」
また一歩踏み出してくるイルナに、Dr.エルカイトはビクリと体を震わせた。
「何処か…違うと思ってた。ケンを見て、それからあの部屋にあった本を読み、気付いた」
Dr.エルカイトは少しずつ後ずさりする。
「貴方は私たちが捨てられた事を怒ってくれた。けれど、結局こんな形でしか私たちを使ってくれない」
ココでイルナは、今までで一番冷たい目でDr.エルカイトを見据えた。
「体の表面を機械で覆っても無駄。貴方はやっぱり人間だ、と」
ビビッ
『――っっ!!』
レイクを貫いた時よりも大きなレーザーの音が響き、Dr.エルカイトの右目の辺りを貫いた。
焼け焦げた肉の匂いと、真っ赤な鮮血が辺りに散る。
それは、人間である証。
ドサリ。
そして、Dr.エルカイトは地面に倒れこんだ。
軽く体が震えているが、動く事はもうできないらしい。
雨が容赦なく彼の体を叩く。
そんな彼を見てイルナは、無造作にレーザーガンを投げ捨てた。

イルナは、レイクをいつもの部屋に運んだ。
濡れた顔を軽く拭い、それから静かにケンの隣の台に寝かせた。
「知らなかったとはいえ、操ってしまったとはいえ、普通の人間として付き合ってくれてありがとう」
ポンポンっと2人の肩を叩いて、イルナは立ち上がる。
「それが、きっととても心地良かった。だから…」
――けれど、人間を許す事は…できなかった…。
そのまま部屋を出て、再びDr.エルカイトの元へ来たイルナは、そっと彼に語りかける。
「あの時感じた怒りは、『生みの親』として?『研究者』として?」
本当に訊きたいのは。
「私たちのため?自分のため?」
返事があるはずもないので、イルナはもう何も言わない事にした。
去り際に、ポツリと呟く。
「……何のために私たちを作ったの?」
雨が降り続く。



その日、その世界から全ての人間が姿を消した。

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