ディールサム家には、3人の子供たちしかいない。
数年前に父が病死、それよりももっと昔に母が『事故死』したからだ。
つい最近まで使用人がいたが、ルークの『3人で暮らしたい』という希望を聞き入れてくれ、今はいない。
家事全般は、主にルークがこなしていた。
彼は、他人が驚くくらいに家族の繋がりを深く感じたがるタイプの人間なのだ。
もしも父が許してくれていたなら、恐らくもっと前に使用人にはやめてもらっていただろう。
屋敷は3人で暮らすにはあまりに広すぎたが、それぞれ近い部屋だけを使えば良い。
そうして、姉弟の今の生活が続いている。
「夕飯できたぞ〜」
ひょっこりと廊下に顔を出して大声を出す。
がしゃがしゃとフライパンを叩いてみたり、非常に騒がしい。
すると、2つの扉が開き、ルキとライシャが姿を見せるのだ。
因みに、買い物は学校帰りに3人でしてくる。
「いただきまーす。…あ、そうだ」
食事が始まってすぐ、ルークが声を上げる。
「神祈祭、2人とも行かないだろ?」
その言葉に、ライシャは申し訳無さそうに俯く。
「ごめんなさい、ルーク。私、人混みが駄目なの…」
ルキも黙って首を横に振るだけだ。
「んーん。別に良いんだ。今までだって行った事ないし。第一俺、ルインって信じてないから」
ルークは頭を掻きながらそう応えた。
そう、ルークが神祈祭に行かない理由はこの2人にある。
姉も弟も行かないと言うので、どうせなら家で3人で過ごそうというのがルークの考え。
人混みが嫌いというのは、大して珍しい事では無いのでルークも納得の上の事なのだ。
友達と一緒に騒いでくるのも悪くは無いが…。
「じゃ、今年も3人で家にいよう。まあ、神祈祭になっちゃうと店もおかしくなるから、今度買い物だけしちゃおうな」
そして、気付いたように続ける。
「そういえば、変な噂知ってる?」
「噂?」
ライシャが首を傾げる。
「うん。何か、『世界が終わる』だの『贄』がどうのこうのだの」
今まで黙々と食事をしていたルキが顔を上げた。
「ああ、学校で皆が話していたような気がするわ」
「俺も今日聞いたんだけど、一体何処からそんなの出てきたんだろうな」
んー、と顎に手を当てて首を捻るルークを、ルキは暫しみつめていた。
が、声を掛けるでもなく静かに席を立つ。
「ごちそうさま」
「お?もう終わり?皿そこに置いとけなー」
「……でも」
「いーのいーの」
まだ何か言いたそうなルキに笑い掛けながら、ルークはヒラヒラと手を振った。
ルキが部屋を出ると、ライシャが小さく息をついた。
ルークは困ったような顔をしながら、ライシャに問う。
「…そんなにルキが怖い?」
ライシャはハッと顔を上げた。
しかし、ルークの目は優しい。
別に、ライシャを責めているわけではないのだ。
「違うんなら良いけど。何か姉さんって、ルキに怯えてるような気がしてさ」
皿を片付ける為に手を動かしながら、前々から思っていた事を口にする。
「違うんなら、……良いんだ」
すると、ライシャが搾り出したような声で言った。
「……怖いの」
ルークの手が、止まった。
「私………あの子が怖いの…」
ライシャの体が震えていた。
「怖い……の…」
ルークは皿を机の上に置き、ライシャの肩を支えた。