ある日、珍しくルキがルークを呼んだ。
ルキは滅多に他人に声を掛けないので、ルークは思わずウキウキと部屋に向かう。
――何の話だろうな。
まあ、あのルキの事だ。
笑い話などではなかろうが。
1人そう考えて思わず笑う。
扉の前について咳払いを1つ。
「ルキ〜。俺、来たぞ〜」
高らかな声と共にノックをした。
「突然ゴメン、兄さん」
ルークの分の椅子を用意しながら、ルキが言った。
表情こそ変わらないものの、声が申し訳なさそうなのがわかる。
「いいや。お前から俺の事呼んでくれるなんて、珍しくって嬉しくって。だってさ」
ココで、ルークの顔が少し曇った。
「お前、全然笑わないんだもんな」
ルキは、兄の顔を見ずに言う。
「笑顔なんて、忘れたのかもしれない」
思わずルークは弟を見た。
ルキは、それでも兄を見ていなかった。
少しの沈黙の後、ルークが突然立ち上がり、いつもより強くルキの後ろからアタックした。
「ルキ〜」
ぼふっ
なかなかの勢いで体が前に飛ばされたが、ルキは倒れなかった。
何故なら、ルークの腕がそのまま前にまわされ、ルキの事を抱きしめていたから。
「…」
ぐりぐりぐり
ルキが何も言わないので、背中に顔を押し付けた後、ルークは耳元で囁いた。
「我慢…してるわけじゃないだろうな。笑いたかったら笑うんだぞ?」
「…」
「…笑いたい時はちゃんと笑うんだ」
何も言わなかったのではなく、何も言えなかった。
ルキは、黙って兄の言葉を聞いていた。
「お前はいつも我慢してばかりだから俺は…兄さんは、心配してるんだぞ」
そう言うと、ようやくルキから離れ、また椅子に座った。
そして、ルキの返事を黙って待っている。
「――僕は…大丈夫」
そう、応えるのが精一杯だった。
大切な人の為なら、どんな辛い事でも。
また沈黙が続きそうになったが、ルークがココへ来た理由を思い出した。
「そうだ、俺お前に呼ばれたんだ。何の用?」
ああ、とルキも思い出したように言った。
「この前兄さんが言っていたよね。終末の噂の事」
まさかあの話がルキの口から出てくるとは思ってなかったので、思わずルークはぽかんとした顔をしてしまう。
「あ、ああ。それがどうかしたのか?」
眉をひそめるルークに、ルキは真剣な顔をして言った。
「…アレは……本当なんだ」
「………え?」
手を頭の後ろに回して、椅子の背もたれに寄りかかる。
ついに自分の弟まで、女神だなんだを信じるようになってしまったのかと、ルークは内心肩を落とした。
自分の家の中まで女神信仰が入ってくるのは、なかなか面倒なものがある。
まあ、ルキがどうしてもそれを信じたいと言うのなら仕方ないが…。
「冗談じゃなくて。そして、選ばれたのがディールサム家という事は知ってる?」
「ディール…な、何だって?」
ディールサム家とは、自分の家のことではないか。
「何だそりゃ!一体誰がそんなこと言ったんだ!?」
大声を上げて、ルークは立ち上がった。
こんな信仰心の無い家から贄を出そうとはいい度胸だ。
いや、むしろ信仰心が無い家だからこそ、贄などに使われてしまうというのか。
いきり立つ兄に、ルキが人さし指を口に当てて、静かに、と小さな声で言った。
「秘密…なんだって。誰にも知られちゃいけないんだって」
誰が贄になるのかなんて、贄以外は知らなくて良い。
「そんな馬鹿な話があるか!何だ?教会の奴らか?ちょっと文句言ってきてやる」
走り出すルークの腕をつかんで止める。
「駄目だよ兄さん」
「何で!」
「わかるんだ、世界の終わりが、本当に来てるって事」
ルークには、弟の言いたい事がわからなかった。