唇を噛んで、弟を見ている自分がいる。
止められ、ないのか。
止めてしまえば、世界は滅びるのだ。
…本当に?

「本当に、行くのか」
見慣れない服を着て歩き出すルキの背中に声を掛ける。
彼は、歩みを止めないままに言った。
「望まれているのは僕なんだ。だから…」
「行かせない!」
ルークが声を荒げたので、ルキはゆっくりと振り返る。
「死ぬかもしれないんだぞ!いや、『贄』なんていうくらいだから絶対に死んじまうぞ!ダメだ!絶対にダメだ!!」
尚も興奮したまま叫ぶルーク。
ルキは、じっとそれをみつめて言った。
「別に騒ぐ事じゃない。世界が無くなるより良いと思う。それに、僕なら死んでも誰も悲しまない」
弟のあまりに淋しい言葉に、ルークが間を入れず応えた。
「俺は悲しいぞ。お前は大切な弟だ。それに姉さんだって!」
すると、それを聞いたルキが微笑んだ。
微笑んだまま言った。
「でも良いんだ。僕が死んだ後の事なんて。僕は兄さんが悲しんでるのなんて分からないから別にいい…。そんな風に思ってる」
恐らく、自分の記憶の中では初めて見た弟の微笑み。
ルークは、呆然とルキの顔を見つめた。
「嫌な奴だよね。自分が良ければそれで良いんだ。こんな弟の事は早く忘れて、どうか幸せに…ね?」
そうしてまた歩き出す弟に、ルークは小さく呟く。
「お前がこんな所で死ぬのに、俺がどう幸せになれるって言うんだ…」

 今朝早く起きたルキは、1人何処かへ歩き出した。
ルークはそれに気付いて後を追い、見たこともない建物に辿り着いたのだ。
自分の街に、こんな建物があった事なんて、知らない。
大きくはなく、森ほど大きくはない木々の集まりの中にひっそりと佇んでいる建物。
中に入るとすぐに地下へ下りる階段があり、現在はそれを下り終わった後に続く廊下にいる。
壁には所々ひびが入り、もしかするとちょっとした衝撃で崩れてしまうかもしれない。
どうしてルキはこんな所を知っていたんだろう。
それもまた、『神の声』とやらの導きなのだろうか。
そう思いながらついて来たが、廊下の終わりに大きな扉を見つけ、ルークは思わず声を掛けたのだ。
その扉の向こうには、自分は入れないような気がして。

 どうしてだろう。
今もまだ、世界が滅びるなんて信じてないのに、ルキは本当に死んでしまう気がするんだ。




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