「ゴメン…兄さん」
ルークの呟きに応えるように、ルキも小さく呟いた。
それははっきりとルークの耳に届き、ルキを止めようと右手が前に出ていた。
「謝るな。言葉なんて要らない。戻って、来い」
しかしその右手はルキに触れる事はなかった。
ルキは既に、扉に手を掛けている。
キィィ…
それは、小さな音を立ててゆっくりと開いていく。
隙間から見えるその奥は暗く、何があるのか全くわからない。
ルキは、これからそんな所へ行こうというのだ。
しかし彼は臆する事無く進んだ。
自分が入る程度まで扉を開き、その中に体を滑り込ませた。
ルークの右手が空を掻く。
ルキを飲み込んだ扉は、開いた時よりも早く、ルークを拒むように閉ざされた。

 一体中で何が行われるんだろう。
贄とは、神とは一体なんなのだろう。
自分は何も知らないのだ。
自分は何もわからないのだ。
だからこそ、弟を止めたい。

 ダンッ
大きな音を立てて、ルークは扉を叩いて叫ぶ。
――だから兄さん、貴方は後悔しないで。
「お前、あの時ああ言ったよな?それなのにお前は俺に、お前を止められなかったって後悔させるつもりなのか?」
いなくなってしまう気がする。
「ゴメン…兄さん」
応えるルキの声が震えている。
「行くな!」
「それは、出来ない」
「お前は死にたいのか?本当にそれでいいのか!?」
死んでしまう気がする。
「死にたくなんてない!でも!!」
震えたままの声で、ルキも叫んだ。
泣いて、いるのだろうか。
「だったら!」
それだったら、帰って来い。
ルークは必死に訴えるのだ。
「お願いだから、僕の決心を鈍らせないで!」
ルキは、扉に背をつけてルークの動きの一つ一つを感じていた。
もう二度と会えない兄の。
兄よりも知っているのだ。
自分はもう、二度と戻ってこないという事を。
「死にたくないんだろ!?」
ルークも、扉にすがるような格好で、ルキに声を掛け続ける。
「そうだね。今きっと、初めてこんなに『生きたい』って思ってる。死にたくない…死にたくないよ…」
ルークは少し、嬉しかった。
ルキが、こんなにはっきりと感情を出したのは初めてだったから。
せっかく感情を出すことが出来たのだから。
だから。
「お前は人のことばかり考えすぎなんだ!自分の事はどうなんだよ!?」
早く、この扉を開けて。
しかし…。
「僕だって自分が大切だ!でもそれ以上に兄さんと姉さんの幸福を望むよ!!」
弟は、本当に自分以外の人間の事しか考えられないのだと思った。

 僕は恐らく、自分の事しか考えていない。
だから今、前へ進むんだ。




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