誰だって、自分が大切なのだろう。
でも、自分を大切だと思うのは、自分を大切に思ってくれる人がいるからなんだ。
本当に自分にとって大切なのは、自分の事を大切に思ってくれる人たちなんだよ。
…きっと。
そう言って、ルキは自嘲気味に笑った。
自分はなんて酷い偽善者なのだろう、と。

「もしもお前が行かなくても明日があったら?世界が滅びるなんて、ただの噂だったとしたら?無駄に死ぬ事なんてないんだ」
ルークはずっとずっと思っていた。
そんな噂、嘘に決まっている、と。
しかしルキは、世界は滅びると言った。
神の声が聞こえると言った。
「それはそれで仕方がない。もしもを考えてちゃこんなことできないんだ」
いつのまにか震えの止まった声で、ルキがはっきりと応えた。
仕方がない。
「…わかった、世界は本当に滅びるとしよう」
…仕方がない。
「良いじゃないか、世界なんて滅んだって。3人一緒なら良いじゃないか」
今度は、ルークの声が震え始めていた。
ボロボロと涙をこぼしていた。
「父さんも死んで、母さんも死んで、お前まで死んだら俺や姉さんは…」
世界が滅びるなんて信じてないのに、どうしてルキが死ぬって思うんだろう。
「他の誰がいなくなっても、兄さんと姉さんだけには生きていて欲しいんだ。お願いだから、僕の数少ない我が儘を聞いて」

 当然、神祈祭で供えられる人形など何も意味が無い。
僕が行かなければ、祭の最中、明日にも世界が滅びる。
彼女は今日、僕が来る事を求めたのだから。
世界が滅びる。
――それは………。

「明日が来たら、3人で笑おう。何だ、やっぱり嘘だったって大声で笑うんだ。来なかったら来なかったで、皆で一緒に…」
「明日が来たら、2人で笑ってね。何事もなかったねって笑ってね。僕なんて、初めからいなかったみたいに」
明るい、ルキの声が聞こえる。
「どうして一人で背負おうとする?今お前が行かなくて世界が滅びても誰もお前を責めはしないさ。だって、未来なんて誰にも分からないんだ」
この扉の向こうでルキは、多分また笑っているんだ。
「せっかくお前が笑ったんだ。そのままの顔で姉さんの所へ戻ろう。姉さんにその笑顔を見せてやってくれ」
しかし。
「嬉しい時に笑えるのは、とても素晴らしい事だね」
扉の向こうの、ルキの気配が消えていく。
コツコツ…と少しずつ遠くなっていくのは、足音だろうか。
「ルキ!ルキ、やめるんだ!!行くな!!」
コツ…
音が止んで、聞こえてきたのは。
「生まれ変われたとしたら、もしも生まれ変われたらまた、兄さんと姉さんの弟になって良い?」
ルークは、息をのんだ。
「…生まれ変わる?そんな必要ないだろう?いつでもお前は俺たちの大切な弟で、これからも3人幸せに暮らしていって…」
力が抜けて、腕がずるずると扉を伝う。
そしてついにルークは膝をついた。
「違うのか?おい、ルキ!!そうだろう!?」
ルキは扉に向けてぺこりと頭を下げてこう言った。

「貴方たちのおかげで、僕は幸せでした」
「…!」
2人とも、お願いだから幸せになってね。
こんな、何もかもを隠すような弟の事なんて、綺麗に忘れて。

 ルークが力の限り押しても引いても、その扉が開く事はなかった。




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