憎かった筈がない。
そう言ったら、ルキは信じてくれるかしら。
ずっと貴方を避けていたの。
それは憎かったからじゃないの。
言ったわよね?
私、貴方がお母様を殺したなんて信じてないの。
ただ、貴方がそれを否定しないのが嫌だった。
あの場にいたから。
ただそれだけで、貴方は罪を被るつもりなの?
いえ、罪を被るつもりだったの?
「姉さん、もう良いのか?」
「何の事?」
長い階段の途中の、ルークの言葉。
「もう、ルキの事は…」
「ルーク、勘違いしないで。私は、ルキが憎かったわけじゃない」
以前の様子から、ルークは心配していたのだ。
姉は、ルキを憎んでいるのではないか、嫌っているのではないか、と。
そう、母を殺した張本人として。
「いえ…、その言い方も違うわね。でも、決してお母様の事でルキを恨んでいたわけじゃないの」
壁に触れていた手を、そっと握るライシャ。
まるで、自分に言い聞かせるように、はっきりと言った。
「お母様を殺したなんて、本当は信じてもいない」
「姉さん…」
ルークは少し、安堵の表情を浮かべた。
「でも、私が見たのは現実だった」
溢れるような赤の中にいた弟。
「殺した所を見たわけではないけれど、あの子は言ったの」
『きっと…僕が…』
そして………笑っていた。
「信じたくなかったし、信じられなかったけど…それから私は、あの子の顔をまともに見る事が出来なかった…」
歩みが止まった姉をそっと支え、ルークは言う。
「仕方ないよ。酷い…モノを見てしまったんだろう?」
仕方ない。
彼もそう言っていたのだ。
「…長い間、あの子に辛い思いをさせていたと思うの」
「ルキだって姉さんを恨んだりしていないさ」
「私は恨まれても当然なのよ」
――ああ、姉も。
ルークは密かに思った。
――姉も弟も、なんて長い間苦しんでいたのだろう。