「苦しいか?」
突然の声に振り返ると、少年がいた。
12,3歳、柔らかい茶色の髪。
全身を深い緑で包んだ少年。
その口調は、何処か面白がっているような。
「…」
「よく考えろ?あの女は、お前の兄貴を待ってるんだ」
「…そうだ」
「お前じゃ駄目なんだ」
「…ああ」

 この少年は、何を言いたいのだろう。
そんな事を思う力も、もう彼には無かった。
ただ、少年の言う事に頷くばかり。
心が、疲れていた。

 ビッと右手の人差し指を立てて少年は言う。
「つまり、お前は必要無いんだ」
「…そうかもしれない」
「兄貴を呼べば良いんだ」
「兄さんは死んだ…」
ココで、少年はクスリと笑った。
「兄貴と同じヤツがいるだろう?」
「…?」
「同じ容姿で、あの女に対する気持ちが同じヤツ」
そんな人間はこの世の中にたった1人。
「…俺…?」
その言葉に、少年は満足そうに頷いた。
「お前の中に兄貴を呼べば良いんだ。お前がそれを望むなら、俺が力を貸してやるよ」
「そんな事が出来るのか…?」
少年は得意げに言った。
「俺の力を侮るなよ」
「それで」
「あ?」
少年は眉をひそめる。
「それで、リアは幸せになれるのか?」
肩をすくめて少年は答えた。
「あの女は、お前の兄貴がいれば幸せなんだろ?」
「…そうか…」

 自分が兄の代わりになるのではなく、兄自身になってしまう。
口で言うのは簡単だけれど、実際そんな事が出来るはずも無い。
しかし。
彼は今、少年にすがるしかなかった。

「リアが…リアがそれで幸せなら」
「…よし」
少年が、パンッと手を叩いた。
そこから彼の記憶が途切れた。




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