そんなある日、『彼』は来た。
風が、強い日だった。
気を紛らわす為の散歩の帰り道、突然声を掛けられた。
「よぉ」
振り返ると、自分とあまり変わらない年頃の少年が立っていた。
さっきまで誰もいなかったのに、彼は一体何処から現れたのだろう。
「…?」
「お前、ディールサム家の人間だな」
「!」
「もうすぐ約束の期日だ。それなのに次の贄の姿が屋敷の中に見えないが…どういう事だ?」
それを聞いて、レイリックは飛び上がりそうなほど驚いた。
「どうして贄の事を知ってるの?普通の人は、その事を知らないはずなのに…」
すると少年は、ちょっとムッとしたように言った。
「そんな事は良い。俺が聞いてる事に答えろ」
レイリックはどうしようかと思ったが、気が短そうだし、事情に詳しいようなので素直に答えておく事にした。
「屋敷にいるはずが無いよ。だって…今度の贄は僕だもん」
それを聞くと少年は、不思議そうな顔をした。
まるで、『何を言ってるんだ?コイツ…』といった感じで。
「皆に聞こえない声が聞こえちゃったから、僕が贄なんだって…そう言われたんだ」
その言葉を聞き終わらないうちに、彼は笑い出した。
急に笑われてレイリックが呆然としていると、少年はとんでもない事を言う。
「そうか、そういう事か。逃げたんだな?」
「なっ!僕は逃げたりしないよ!!」
思わず声が大きくなる。
しかし少年は、手をヒラヒラさせて言った。
「違う違う。お前の事じゃない。…まあ良い。お前、名前は?」
「レイリック…」
憮然とした表情で言うレイリックに、少年は厳しい口調で言った。
「フルネームで、だ」
またココで、レイリックは少し悩んだ。
この世界の名前は3つの単位で構成されている。
普通のいわゆる『名前』『苗字』、そして、それで呼ばれる事が嫌われる『セカンド』。
真ん中…つまり、レイリックの名前でいうと『ハルト』がセカンドに当たる。
何の為に『セカンド』があるのかは不明なのだが、必ずつけられる。
そして、その名前は滅多に口にされない。
相手を見下して呼ぶ事になるから。
これは、この世界ができた時からのしきたりだった。
「……れ、レイリック……ハルト・ディールサム…」
雰囲気的に黙っているわけにもいかず、小さな声で言う。
「…ふ〜ん…」
すると少年は、さっきよりもっと不思議そうな顔をした。