――先生の言葉に従いたいけど、フェイスティーの言葉が気になる。
『お前もそういう英雄気取りなのか』
贄になる事を誇りに思うのは、英雄気取りなの?
先生…僕は、どうしたら良いの?

「どうしたんだ、レイリック」
「あ…」
男に声を掛けられて、レイリックは我に返る。
「今日は、なんだかボーっとしているな。何かあったのか?」
「…」
「…ココで終わりにしておこう。年明けがだいぶ近付いた。お前も色々思う所があるだろう」
そう言って、男はハッと口を塞ぐ。
「…すまない」
レイリックは苦笑しながら首を横に振る。
「良いんだ。僕、全然気にしてないよ。それより…」
「レイリック?」
「先生、僕は英雄気取りなの?」
男にすがる様に尋ね、俯く。
「…そんな事、誰に言われた?」
「知らない子。フェイスティーって言ってた」
「…!」
男の顔色が、明らかに変わった。
しかし、俯いたレイリックはそれに気付く事はなかった。
「いきなり僕の事をセカンドで呼んだりするし、変な子なんだ。でも、色々知ってそうで…凄く気になるんだ」
男の手を握って、今度は目を見ながら言う。
「だって、『お前もそういう英雄気取りか』って言ったんだ。『も』って言う事は、他の誰かの事を知ってるんだよね」
そして、ゆっくりと手を離した。
「きっと…贄の事を詳しく知ってるんだよ、あの子…」
レイリックが懸命に言ったが、男の耳には届いていなかった。

――フェイスティー…。ついに…ついにアイツが…。

「僕は、英雄気取りなの?」
「……いや……」
再び尋ねるレイリックに、一呼吸おいて男は答えた。
「大丈夫。お前は英雄気取りじゃない。むしろ、本物の英雄なんだ」
「…」
戸惑うレイリックだったが、男はそれに構わず立ち上がった。
「すまない。急用を思い出した。今日はこれで」
「せ、先生」
手を伸ばすが、男には届かない。
「これだけは覚えておけ。お前は贄になる事を誇れる。胸を張れ」
「…うん」

 どんな時も一週間に一度は屋敷に顔を出した男だったが、この話をして以来ぱったりと顔を出さなくなってしまった。
レイリックは、とてもとても不安なまま年明け、…つまり、自分の最期の時を迎えようとしていた。




previous + back + next