「待て!フェイスティー!!」
ぎゅっと目を瞑ったレイリックの耳に、慣れた男の声が響いた。
「…先…生?」
目を開けて見ると、足早に近付いてくる男は、確かに『先生』だった。
「もうやめろ。その子を殺す必要はない」
男を見たフェイスティーは、十字架を下げた。
「…何だお前か。今更何の用だ?」
しかし男は答えず、レイリックの方を見た。
「レイリック、もうお前は帰れ。向こうに階段がある」
「先生、どうしてここへ?」
男は、これにも答えなかった。
「お前はここにいるべきじゃない。帰るんだ」

 突然現れ、質問にも答えない男に呆れたようにフェイスティーが言った。
「…帰ってきたのか?全てを捨てたお前が。運命から逃げたお前が」
男は、今度はしっかりとフェイスティーを見据えて応える。
「…うるさい。大方おかしなものでも見せてレイリックを騙したんだろう」
「騙した?心外だな。お前こそ、そこの子供に押し付けて、そのまま逃げ続けるんだと思っていたんだが」
顎でレイリックを指し、いつものようにふふんと笑う。
「もう、良いんだ。全部私が間違っていた」
「子供に対する罪を背負って生きていく事は出来ない、と。綺麗事か」
「そうだ。その通りなんだ」
そんな2人のやり取りが全くわからず、レイリックは不安そうに男を見た。
「先生…」
すると男は、悲しそうな目でレイリックを見た。
「レイリック…。すまなかった、私は…」

――私はきっと、怖かった。
自分の命を捨てて世界を救おうなんて、そんなことは怖くて出来なかったんだ。




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