「私は、最初のレイリック・ハルト・ディールサム。10年前に失踪した、お前の兄だ」
男が、レイリックを見ながら言った。
「…先生…?」
「父さんや母さんは、お前に私と同じ名前を付けたんだな」
そして、レイリックの頭を優しく撫でた。
「私は…本当の神の声を聞いた男。そして、運命から逃げ出した男」
「だって、僕も声が聞こえるよ?それは…」
すると男は、首を横に振った。
「それは…神の声じゃない。お前もディールサム家の血をひいているから、何か特殊な力を持ってしまったのだろう。でも」
静かに微笑んだ。
「お前の話を聞く限りでは…お前が聞いているのは、神の声じゃない」

「…正確に言えば、お前が聞いているのも『神』の声ではないんだがな」
それまで黙って聞いていたフェイスティーが、ようやく口を開く。
「まあ良い。ハルト、お前は死ぬ決心がついたのか」
「…ああ」
「お前が戻ってきたんだ。寛大な俺は、そこの子供を見逃してやろう」
そんなフェイスティーの言葉に男は苦笑する。
「すまないな…。さあ、帰れレイリック」
しかし、突然の事ばかりでレイリックはそこで素直に帰る事なんて出来なかった。
「い、嫌だよ。先生がいなくなっちゃうなんて嫌だ!」
「馬〜鹿。お前、どうせ死ぬつもりだったんだろうが。会えなくなるのは一緒だよ」
フェイスティーが茶化すが、レイリックは引き下がらない。
「それでも嫌だもん!先生が死んじゃうなんて嫌だもん!」
――僕が死んでも良いって思ったのは、父さんと母さんと、それから先生に死んで欲しくなかったからだ。
「先生が…先生が贄なんて…」
喚き散らすレイリックに、元々気の長くないフェイスティーは我慢出来なくなり、ぎゅっと十字架を握った。
「あー…うるさいヤツだなぁ!!」
振り下ろされた十字架は、真っ直ぐレイリックに向かう。
「レイリック!!」
シュンッ
何かが切り裂かれる音が小さく響いた。

――ほら、この子の為ならこんなにも簡単に命を投げ出せる。
あの時自分が逃げたなんて、信じられないくらい簡単に。

「――先生!!」




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