それからどれくらい経っただろう。
「おい、いつまでも泣いてないでもう帰れよ。ここは普通の人間がいて良い場所じゃない」
男の亡骸にすがりながらまだ肩を震わせているレイリックに、フェイスティーは言った。
彼も、少々複雑な表情をしている。
「…ねぇ…」
少し間を置いて、レイリックが涙声で言う。
「あ?」
「先生は…先生は結局、僕に何をさせたかったの?」
フェイスティーは、首を傾げる。
「…『何を』って…?」
ようやく顔を上げ、涙を拭うレイリック。
「先生は僕に、『自分が贄である事を誇れ』と言った。僕が贄であることを奨めたわけでしょう?だったらどうして…」
それに対してフェイスティーは、やれやれといったように肩をすくめた。
「まだわからないのかお前は」
「何が?」
「アイツは最初に逃げ出した。けれど、運命の日が近付くにつれて、怖くなってきたんだ」
逃げても『声』が聞こえなくなるわけじゃないし、と。
「それで、ディールサム家の様子を覗きに行くと、お前がいた。アイツはそれを見て、もう代わりがいるから大丈夫だと思った」
ここで、フェイスティーはレイリックを指差す。
「だけど、やっぱり気になって気になって、家庭教師という形で潜入したわけだ」
レイリックは、静かに頷く。
「そこで懐いてくるお前、実の弟。…だんだんコイツに身代わりをさせるのはとんでもない事なんじゃないかと思い始めた」
何故かここでフェイスティーは眉をひそめた。
そして、何かを考えるように顎に指を当てる。
「…で、結局お前を贄にするなんて事は耐えられない。自分がやるべきなのだ…ってわけだな」
頭を掻きながらフェイスティーが続ける。
「お前たちの『家族に対する想い』ってヤツは、家族がいない俺にはいまいちわかんねぇけど」

 フェイスティーの言葉を頭の中で繰り返し、ようやくレイリックは深く頷いた。
「……そう…か…」
「お前が聞いていたのは違う声だ。アイツが言っていた通り、お前はお前で何か力があるんだろ。わかったなら、もう帰れ」
しっしっと追い払うような仕草をするフェイスティーに、恐る恐るレイリックは尋ねた。
「もう、世界は平気?」
まったく…といった感じに腕組みをしながら、フェイスティーは言う。
「…とっくに年が明けてるから帰ってみろよ。俺がお前に見せたのは…幻だ」




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